農作業安全コラム

アメリカの農作業事故状況について

R1年10月 井上秀彦

 日本において農作業事故は大きな問題となっており、長らく事故撲滅の取り組みが進められていますが、海外の事情はどうなっているでしょうか。筆者はこの7月にアメリカ農業生物工学会(American Society of Agricultural and Biological Engineers)に参加し、アメリカの農作業事故発生状況に関する研究発表を聴く機会がありましたので紹介したいと思います。

 下記のグラフは1992年から2017年のアメリカにおける農業従事者の死亡者数と就業人口10万人当たり死亡者数の推移を示しています。1990年代は1000名近くの方が亡くなっていましたが、2017年では581名まで減少しています。一方、就業人口10万人当たりの死亡者数を見てみると23.0人(日本は16.7人(※1))となっており、1990年代から横ばい状態であることが分かります。この数は他産業の7倍であり、アメリカでも大きな社会問題とされています。

図 アメリカにおける1992~2017年の農作業事故死亡者数の推移(U.S. Bureau of Labor Statistics3から作成)
図 アメリカにおける1992~2017年の農作業事故死亡者数の推移(U.S. Bureau of Labor Statistics(※2)から作成)

 アメリカの農作業事故をもう少し詳しく見てみると日本の状況と異なる点が見てとれます。アメリカ全体の詳細情報はないのですが、独自の統計を取っている州があり、今回はそちらを紹介いたします。ペンシルバニア州の2015年から2018年の統計(※3)によると18歳未満の農作業事故被害者が全体のうち毎年15~27%を占め、若い世代が多く亡くなっています。 この理由としては住居と農場が近いことが多いため、遊んでいる子供や手伝いをしている子供が機械や農作業に巻き込まれてしまうことがあるためです。こういった悲劇を無くすため、ワークショップ形式による事故事例の講習会や、農機の安全講習を若い世代へ向けて開催するなどソフト面からの取り組みがアメリカ各地で進められています。

 一方、ペンシルバニア州の統計を事故区分別に見てみると農業機械作業に係わる事故は毎年全体の67~82%を占めており、日本とアメリカで似た状況であることが分かります。また、事故原因別に見てみると農業機械作業に係わる事故のうちトラクターの転落・転倒が毎年20~31%を占めており、アメリカでもROPS(安全キャブ・フレーム)の重要性が再認識されています。

 以上のように、アメリカにおいて農業は他の産業に比較して危険な職業であると認識されており、これを撲滅するための取り組みや研究が進められています。日本とは農作業環境や状況が異なる点もありますが、共通する点も多くあるため、海外の研究機関とも情報交換をしつつ皆様の安全のお役に立てるように取り組みを進めていきたいと思います。

※1: http://www.maff.go.jp/j/seisan/sien/sizai/s_kikaika/anzen/attach/pdf/index-89.pdf
※2: https://www.bls.gov/iif/oshcfoi1.htm
※3: https://extension.psu.edu/business-and-operations/farm-safety

 

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