北海道のチモシー主体採草地における牧草生産の現状と課題


[要約]
チモシー主体草地の平均年間乾物収量は農家刈取り実態の場合930kg/10a、1、2番草TDN含量はそれぞれ59.2%、56.3%である。栄養価を重視して1番草を出穂始め、2番草をその50日目に刈取る場合、収量は765kg/10a、1、2番草のTDN含量は64.5%、59.4%と推定される。乳牛に牧草を最大限摂取させることを前提に試算したTDN自給可能割合は農家刈取り実態で51%、出穂始刈取り体系で62%となり、栄養価を高めれば自給可能割合を高められるが、草地面積に制約があるため単収向上などの対策が課題である。
北海道立天北農業試験場・研究部・牧草科
北海道立根釧農業試験場、北海道立新得畜産試験場、北海道立滝川畜産試験場、
北海道立北見農業試験場、農業改良普及センター
[連絡先]01634-2-2111
[部会名]畜産・草地(草地)
[専門]栽培
[対象]牧草類
[分類]指導
[背景・ねらい]
北海道の飼料自給率は低下してきている。自給率の向上のためには草地の生産性の把握が不可欠であるが、栄養生産性等の実態は必ずしも明確ではない。そこで、北海道の主要な酪農地帯のチモシー主体採草地における牧草生産の現状を調査し、自給率向上のための課題について検討する。
[成果の内容・特徴]
  1. 主要酪農地帯(道央道南、道北、網走、十勝、根釧の5ブロック)を対象に、3か年で延べ659点の酪農家の草地の生産性等を調査した。
  2. 農家収穫日は全道平均で出穂始期から8〜12日の遅れ、2番草の刈取りは1番草刈取り後、概ね60〜70日目であり、70日を超える場合が30%認められる。
  3. 農家刈取り時の年間乾物収量は871〜990kg/10a、全道平均で930kg/10a、栄養価を重視した出穂始刈取り体系(1番草を出穂始、2番草をその後50日目に刈り取る)では688〜816kg/10aであり、全道平均で765kg/10aである(表1)。
  4. 農家刈取り時のTDN含量は全道平均で1番草59.2%、2番草56.3%、出穂始刈取り体系では全道平均で1番草64.5%、2番草59.4%であり、刈取り時期を早めることによって1、2番草でそれぞれ5.3、3.1ポイント高まる(表2)。
  5. 農家刈取り時をベースとした年間TDN収量は495〜574kg/10a、全道平均で532kg/10aであり、出穂始刈取り体系では432〜511kg/10a、全道平均で477kg/10aである。
  6. 調査結果に基づきTDNの自給がどの程度可能かを試算した。この場合、乳牛に牧草を最大限摂取させ、その上で不足するエネルギーを濃厚飼料から補うという考え方を前提としてTDN自給可能割合(%)=(牧草からのTDN摂取可能量)/(TDN要求量)×100を計算した。試算の結果によればTDN自給可能割合は農家刈取り時をベースとした場合には51%、出穂始刈取り体系では62%となり、栄養価を高めれば10ポイント高まる(表3)。
  7. 現状の飼養規模において前記の自給可能割合を達成するために必要な採草地面積と現状酪農家一戸当たり畑総面積(飼料畑面積)との比を草地需給割合(%)とし、草地面積の過不足について試算した。その結果、草地需給割合は農家刈取りをベースにすると道北、網走、根釧の3地域で100%を越えるが、出穂始刈取り体系で100%を越える地域は道北のみである(表4)。
  8. 以上のことからTDN自給可能割合を向上させるためには栄養価とともに単収向上などの対策が課題である。
[成果の活用面・留意点]
  1. 本成績は北海道におけるチモシー主体採草地の平均的な生産性を推定する資料として利用できる。また、今後の飼料自給率向上戦略策定の参考となる。
  2. 収量調査は出穂始から出穂期に一斉に行ったので、出穂始期、農家刈取り日の収量、栄養価は生育日数で補正されている。
  3. TDN自給可能割合は、あくまでも乳牛に牧草を最大限摂取させるという特定の飼養条件において達成可能なTDN自給率である。現状の酪農家で行っている飼養方法とは異なる。また、今回の試算では放牧地およびとうもろこし畑を全て採草地に換算している。

平成11年度北海道農業試験会議成績会議における課題名及び区分
課題名:北海道の採草地における牧草生産の現状と課題(指導参考)
[その他]
研究課題名:牧草の栄養価及び収量向上による飼料自給率向上促進事業
予算区分  :道単
研究期間  :平成11年度(平成9〜11年)
研究担当者:竹田芳彦・出口健三郎・澤田嘉昭・吉澤晃・中村克己・田川雅一・木曽誠二・寶示戸雅之・他
発表論文等:

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