牛の枝肉形質と抗病性に関与する遺伝子領域の解析
[要約]
黒毛和種の枝肉形質に関与する遺伝子領域は1,9,13,14,19および21番染色体などに存在する。小型ピロプラズマ病抵抗性と初産次の体細胞数は8,18および22番染色体などの遺伝子領域の影響を受けており、FEZL遺伝子の変異は乳房炎抵抗性に関与する。
[キーワード]
黒毛和種、枝肉成績、乳房炎、小型ピロプラズマ病、QTL
[担当]道立畜試・家畜生産部・育種科、畜産工学部・代謝生理科、遺伝子工学科
[連絡先]電話01566-4-5321
[区分]北海道農業・畜産草地
[分類]科学・参考
[背景・ねらい]
DNAマーカー情報を用いた育種技術は選抜精度の向上や世代間隔の短縮に寄与することが期待されており、この育種技術を確立するためには経済形質に関与する量的形質遺伝子座(QTL)領域を同定し、QTLの効果を明らかにする必要がある。そこで、本試験では黒毛和種の枝肉形質に関与するQTL領域および小型ピロプラズマ病と乳房炎の抵抗性形質に関与するQTL領域の同定を行う。
[成果の内容・特徴]
- 黒毛和種の田尻系種雄牛を父とする半きょうだい家系(去勢牛)において枝肉形質に関与するQTLは1,9,13,14,19および21番染色体などに存在する(表1)。このうち9,13,14および21番染色体上のQTLは他の黒毛和種の家系でも検出された領域とほぼ一致し、同じ遺伝子が分離されている可能性が高い。
- 経済的に最も重要なBMSNo.(脂肪交雑基準)に関するQTLは19と21番染色体上に存在する(表1)。これらQTLにおける父由来ハプロタイプ(Q19とq19およびQ21とq21)により肥育牛のBMSNo.は0.9以上の差があり、それぞれのQTLはBMSNo.に対して相加的効果を持つ(表2)。
- Theileriasergenti(TS)の感染試験において、ヘレフォードは黒毛和種・F1(黒毛和種×ヘレフォード)よりTSに対する抵抗性が低い。またF1と黒毛和種との間に抵抗性に差が認められず、抵抗性遺伝子はほぼ完全な優性効果を持つ。黒毛和種の保有するTS抵抗性に関するQTLは8番と18番染色体に存在する(表3)。
- 初産次の体細胞数に関して最も強く連鎖する領域が22番染色体に存在する。この領域の候補遺伝子FEZLの変異によりアミノ酸配列の107番目にGlycine残基が挿入し、Glycine鎖12G型が13G型に変異する。この変異と初産次の体細胞数との関連が認められることから、FEZLは乳房炎抵抗性遺伝子の一つと考えられる(図1)。
[成果の活用面・留意点]
- 同定したQTL領域の情報はDNAマーカー育種と原因遺伝子解析のための基礎的情報となる。
- これらQTL領域の情報はマーカー数、分析頭数を増やし効果検証を経た後、種雄牛やドナー牛の選抜情報として利用することができる。
- 体細胞数には搾乳衛生など環境要因が大きな影響を及ぼしており、FEZL遺伝子の効果検証を行う必要がある。
平成16年度北海道農業試験会議(成績会議)における課題名および区分
「牛の枝肉形質と抗病性に関与する遺伝子領域の解析」(研究参考)
[具体的データ]
[その他]研究課題名:牛のDNAマーカー育種技術の開発
予算区分:国費補助
研究期間:2000〜2004年度
研究担当者:藤川朗、森井泰子、川本哲、尾上貞雄、渡邊敏夫、杉本真由美
発表論文等:1)A.Fujikawaetal.Proc.of29thISAG,133.2004
2)M.Sugimotoetal.Proc.of29thISAG,128.2004
3)杉本ら:特願2004-256487「ウシの乳房炎抵抗性遺伝子FEZLの遺伝子診断法」
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