BSE疑似患畜の経過観察と脳内接種法の確立
[要約]
牛海綿状脳症(BSE)発生農場より導入した疑似患畜18頭には、BSEの発症や脳内にプリオンの蓄積はみられない。また、子牛への脳乳剤脳内接種法を確立し、BSE感染試験が可能である。
[キーワード]
[担当]道立畜試・畜産工学部・遺伝子工学科、感染予防科、代謝生理科
[連絡先]電話01566-4-5321
[区分]北海道農業・畜産草地
[分類]科学・参考>
[背景・ねらい]
牛海綿状脳症(BSE)は、長い潜伏期間と進行性の神経疾患を特徴とするプリオン病の一つであり、特に人の変異型クロイツフェルト・ヤコブ病との関連性が示唆され、公衆衛生上大きな問題となっている。国内では14頭(2004年12月現在)の患畜が確認されているが、何れも死後の検査によるものであり、生前に発症を確認された例はない。BSEの病態解析や診断法の開発などBSE研究を推進する上で、生きたBSE感染牛を確保することは急務である。本課題では、BSEの発症を想定して、BSE発生農場から疑似患畜を導入し、疑似患畜の臨床症状の観察や生体材料から診断指標になると考えられる生化学的項目を解析することで、BSEの生前診断の可能性を検討する。さらに確実にBSE実験感染牛を作出するため、脳内接種法による子牛への感染実験方法を検討する。
[成果の活用面・留意点]
- 道内のBSE発生農場2戸から疑似患畜18頭を導入した。導入した疑似患畜は、飼養期間中、BSE発症を疑う異常な臨床症状は示さない。また、死亡あるいは鑑定殺を行った16頭は、ELISA法による延髄のBSE検査で陰性である。
- 血液および血清生化学分析は概ね正常な値で推移する。二次元電気泳動による血漿中蛋白質の解析は観察途中から出現するスポットが存在する。また、中枢神経細胞損傷の指標となる脳脊髄液S-100B蛋白質濃度においては一時的な変化を示す個体があったが(図1)、概ね安定して推移し、中枢神経障害を疑う所見はみられない。
- 子牛の頭部の縦断および横断標本を用いて、穿刺部位を決定した。子牛4頭に対し、決定した部位をピンドリルにより開頭し(図2)、カテラン針を用いて着色正常脳乳剤1mlを接種した結果、脳乳剤は脳脊髄液中に拡散し、BSE病変好発部位である脳幹部周囲にも分布する(図3)。今回確立した方法について、プロトコルを提示する(表1)。
[成果の活用面・留意点]
- 子牛への脳内接種によるBSE感染実験は、動物バイオセーフティ基準(ABSL)2を必要とする。
- BSE感染脳乳剤の調整にはABSL3実験室、感染実験に用いた動物の飼養にはABSL1施設を必要とする。
平成16年度北海道農業試験会議(成績会議)における課題名および区分
「BSE疑似患畜の経過観察と脳内接種法の確立」(研究参考)
[具体的データ]
[その他]研究課題名:BSE疑似患畜の経過観察と脳内接種法の確立
予算区分 :外部資金
研究期間 :2002〜2004年度
研究担当者:福田 茂夫、二階堂 聡、松井 義貴、及川 学、平井 綱雄、川本 哲、尾上 貞雄、扇 勉
発表論文等:
>1)Fukudaetal.(2004)InternationalsymposiumofpriondiseasesinSendai,Japan.
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