リンゴ害虫の交信攪乱剤を活用した減農薬防除
[要約]
交信攪乱剤のうちモモシンクイガ対象の単剤を利用し、モニタ−トラップと気象要因から防除適期を把握することで、コストを低減したモモシンクイガやキンモンホソガ等のリンゴ害虫の同時防除が可能である。
[キ−ワ−ド]
[担当]上川農試・研究部
[連絡先]電話0166-85-2200、0166-92-2077
[区分]北海道農業・生産環境
[分類]技術・参考
[背景・ねらい]
リンゴ害虫の交信攪乱剤を利用した減農薬栽培の推進を図るため、その有効性や天敵類への影響を評価すると共に、コスト低減のための方向性、フェロモントラップ利用にあたって注意すべき問題点などを整理する。
[成果の内容・特徴]
- 交信攪乱剤(複合剤)の効果は、モモシンクイガの防除に有効であった。キンモンホソガに対する防除効果は不十分であり、ハマキムシ類では判定できなかった。天敵類に対しては、キンモンホソガの寄生蜂への影響は小さく、ハダニ類の天敵であるカブリダニ類への影響は判定できなかった。その他の害虫の発生状況として、交信攪乱園では殺虫剤散布回数の低減により、展葉期にマイマイガを主体とする鱗翅目幼虫被害が増加し、夏季以後にはリンゴサビダニが多発する園地が目立った(表1)。
- モモシンクイガのフェロモントラップでの誘殺数は最低気温15℃以上になる時期に増加する傾向がみられる(図1)。誘殺消長と産卵消長は符合するので、交信攪乱園ではこの時期から産卵状況の観察を始めるのが良い。また、増毛町で日平均風速0.5m/s以下(図1)、余市町で1.5m/s以下になる時期に高まる傾向がみられるので、2m/s以上の強風が吹く園地では防風ネットを展張するなどして風速を弱める必要がある。
- 交信攪乱剤利用園の殺虫剤散布回数は、慣行防除園の1/3〜1/2であったが、交信攪乱剤の価格が高いため、薬剤費用は慣行防除より2〜7%高い。これに対して。交信攪乱剤を複合剤(コンフュ−ザ−R)からモモシンクイガのみを対象とした単剤(シンクイコン)利用に切り替えた場合、薬剤費用は慣行防除より27%節減される。この場合、対象外のキンモンホソガの成虫発生期は有効積算温度を用いて推定でき(図2)、その防除適期は第2回成虫発生期である。本時期はモモシンクイガの産卵期にもあたることから、薬剤を選択することで両害虫の同時防除が可能である(図3)。
[成果の活用面・留意点]
- 交信攪乱剤の利用にあたっては、フェロモントラップを設置し、各害虫の誘殺状況を把握しておく。
- 各種フェロモントラップ利用上の特徴・注意点は、1)モモシンクイガのフェロモントラップでは誘殺初期にコブシロシンクイが捕獲される。2)ハマキムシ類のフェロモントラップでは、混同しやすい種類は少ない。3)ナシヒメシンクイのフェロモントラップには、外観上識別困難な近似種が多く誘殺されるので、道内での利用には適さない。
平成16年度北海道農業試験会議(成績会議)における課題名および区分
「りんご害虫の交信攪乱剤を活用した減農薬防除」(指導参考)
[具体的データ]
[その他]研究課題名:交信攪乱剤を活用した減農薬防除技術(1)りんごのハマキムシ類とシンクイムシ類
予算区分:道費
研究期間:2001〜2003年度
研究担当者:水越 亨、中尾弘志、橋本庸三
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