ふん尿処理による温暖化影響の地域単位評価
[要約]
自治体レベルの広域地域を評価範囲として、環境に与える負荷を定量化する地域単位LCA評価は、対象技術の経済性だけではなく環境影響との融合を図ることで、意思決定のための新たな情報を提供することができる。
[キーワード]
地域単位LCA、家畜ふん尿、温室効果ガス 、政策利用
[担当]根釧農試・研究部・経営科、酪農施設科
[連絡先]電話0153-72-2004
[区分]北海道農業・総合研究
[分類]行政・参考
[背景・ねらい]
行政機関が農業部門での新事業を行なう場合に求められる説明責任は、今は経済効果の評価ばかりではなく、環境へ与える影響についても広く求められつつある。そこで、従来のLCAの評価対象であった点的な環境負荷定量分析を拡大させ、地域全体の特定産業部門を範囲とした地域単位LCAの評価手順を示す。その上で、根室管内A町の解析結果を事例に、市町村自治体行政の農業政策への活用を図る。
[成果の内容・特徴]
- 地域単位LCAは、1つの集落や農家集団などを対象としたLCAを拡張させ、実数データを直接収集するのが困難な市町村域や都道府県といった広範囲の地域を対象として評価をする。評価の方法と、そのために必要な地域のデータを示した(図1)。
- 根室管内A町を例に、図1のフローと表1の原単位を用いて、A町全体の酪農ふん尿処理に起因する温暖化負荷を地域単位LCAによって計算した。結果、1年間で二酸化炭素に換算して約21万9千トンとなり、スラリー処理は堆肥処理に比べて温暖化負荷の発生が抑えられた処理体系であることがわかった(表2)。また、定量分析値を計算することによって、他産業の負荷や他町村との負荷比較が可能となった。
- 地域単位LCAの活用法の1つとして、A町の評価結果をもとに、A町政策に関する検証を行なった(表3)。個別型バイオガスプラントで発生するエネルギーを自らの経営でのみ利用する場合、その負荷削減効果は二酸化炭素換算で80〜100トン程度となった。特に熱電併給プラントでは処理中に発生する温暖化負荷のほぼ全てを控除する効果があることがわかった。
- 表3での評価範囲を前提として、施設投資と削減温暖化負荷の比較をしたところ(表4)、A町でのプラント処理への投資額当たり削減負荷量は、熱電併給のほうがやや増えるとの計算結果が出た。更なる負荷削減のためには、大量に発生する余剰ガスの有効利用策を講じる必要がある。
[成果の活用面・留意点]
- 本試験成果は地方自治体等が政策立案や実行計画の策定をする際に,その環境影響を把握し,投資費用対効果の検証に活用できる.
- 本成果で使用した原単位は、主に道東草地型酪農専業地帯を対象に設定したものであり、それ以外の地域で適用する際は新たに設定し直す必要がある。
平成17年度北海道農業試験会議(成績会議)における課題名及び区分
「乳牛ふん尿処理による温暖化影響の地域単位評価手法と個別型バイオガスプラントの負荷削減効果(行政参考)
[具体的データ]
[その他]
家畜ふん尿バイオガスシステムのLCAに関する研究開発
予算区分:外部資金
研究期間:2003〜2005年度
研究担当者:日向貴久、関口建二
発表論文等:日向(2005)、農業機械学会北海道支部会報、123-127
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