耐冷、多収、低蛋白質の水稲酒造好適米新品種「彗星」(空育酒170号)
[要約]
水稲「空育酒170号」は大粒で心白を有する中生の酒造好適米系統である。千粒 重が重く多収であり、穂ばらみ期耐冷性が強く、蛋白質含有率が低い。「初雫」の全てと不適地に栽培されている「吟風」および「きらら397」などに置き替えて普及することにより、北海道の酒造原料米の品質向上と安定生産を図る。
[キーワード]
[担当]道立中央農試・生産システム部・水田農業科
[連絡先]電話0126-26-1518
[区分]北海道農業
[分類]技術・普及
[背景・ねらい]
現在北海道内で酒造原料米として3,205トン(平成16年)が使用されているが、このうち北海道米の占める割合は27.7%にすぎない。これらを反映して、平成17年度の道内の酒米作付面積は、「吟風」176ha(前年比72%)、「初雫」10ha(同53%)と、いずれも前年に比べ減少している。
この状況を打破して、北海道酒米の地位を確固たるものとし、作付面積の拡大を図るには、道内の酒造メーカーにおける北海道米の使用割合を高めることと、酒造好適米として道外への販路を拡大することが必要である。そのためには新品種の導入により、収量と品質の安定性の一層の向上が求められている。
[成果の内容・特徴]
- 水稲「空育酒170号」は平成8年に「北海278号」(のちの「初雫」)/「空育158号」(のちの吟風)の組合せの人工交配の雑種後代から選抜され育成された、中生の酒造好適米粳系統である。
- 出穂期と成熟期は「吟風」「初雫」「きらら397」並の“中生の早”である。
- 稈長は「吟風」「きらら397」並で、穂長は「初雫」より長く、「吟風」「きらら397」より短い。穂数は「きらら397」より少なく「吟風」「初雫」より多い。草型は「吟風」、「初雫」と同じ“中間型”。
- 耐倒伏性は「吟風」並の“やや強〜強”である。障害型耐冷性は、穂ばらみ期の耐冷性が「吟風」「きらら397」より強く、「初雫」より弱い“強”であるが、開花期耐冷性 は「きらら397」より弱く「吟風」並の“極弱”である。いもち病真性抵抗性遺伝子型は“Pik”と推定される。葉いもち抵抗性および穂いもち抵抗性は「きらら397」より強い“やや強”である。
- 収量は「初雫」並に多収である。
- 千粒重は「吟風」「初雫」「きらら397」より重い。心白の発現は「吟風」より少なく小さい。玄米品質は「吟風」並の“中上”蛋白質含有率は「吟風」より低く「初雫」「きらら397」並である。
- 酒造適性について「吟風」に比べ精米時間がやや長く、水時間は少し長めで、硬い印象がもたれる。原料処理、蒸米および製麹作業性が「吟風」並に良好である。酒質が「吟風」と異なり、きれいなタイプの酒質を好む業者に評価される。
[成果の活用面・留意点]
- 上川(士別市以南)、留萌(中南部)、空知、石狩、後志、胆振、日高、渡島、檜山各支庁管内の低蛋白質米安定生産が可能な良地帯に適応し、「初雫」の全部、および「吟風」と「きらら397」の一部に替えて、1,000haの普及が見込まれる。
- 初期分げつが少ない傾向にあるので、栽培基準の栽植密度を守り、側条施肥など初期生育を促進する栽培法を心がける。
- 蛋白質含有率が高いと酒質を低下させる原因となるので、多肥栽培は避ける。
平成17年度北海道農業試験会議(成績会議)における課題名および区分
「水稲新品種候補「空育酒170号」」(普及奨励)
[具体的データ]
[その他]
多様な米品種の開発促進と栽培技術の確立
T.酒米及び加工向け品種の開発促進
予算区分:受託(民間)
研究期間:2004〜2009年
研究担当者:田中一生、平山裕治、吉村徹、前田博、本間昭、相川宗嚴、田縁勝洋、丹野久、菅原圭一、宗形信也、柳原哲司
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