重窒素で標識した牧草による牛のタンパク質消化率の測定
[要約]
重窒素で標識した牧草を牛に給与し、全窒素と重窒素の出納を調査することにより、ふん中窒素に占める内因性窒素のおおよその割合が明らかになり、飼料のタンパク質消化率を全窒素出納だけで算出するよりも正確に定量できる。
[キーワード]
[担当]根釧農試・研究部・草地環境科・乳牛飼養科
[連絡先]電話01537-2-2004
[区分]北海道農業・畜産草地
[分類]科学・参考
[背景・ねらい]
家畜を供試して牧草のタンパク質消化率を測定する場合、ふん中に内因性窒素が含まれるので、牧草のタンパク質含量が低いと相対的に内因性窒素割合が高まり、牧草由来のタンパク質消化率が過小に評価される。このため、内因性窒素を別途測定できれば、タンパク質消化率のより正確な測定が可能となる。そこで、重窒素を施肥して栽培した重窒素標識飼料を給与し、全窒素と重窒素の出納調査結果から内因性窒素の影響を少なくして飼料のタンパク質消化率を従来法より正確に測定する。
[成果の内容・特徴]
- チモシー単播草地を2分割し、早春一方に非標識窒素肥料を、他方に重窒素標識肥料を施肥して標準栽培し(非標識区、標識区)、粗タンパク質(CP)含量がそれぞれ7.4 %、7.6%と同等で、重窒素割合が0.365atom%と5.46 atom%の1番草を収穫して、サイレージに調製する。
- 体重486kgのホルスタイン種育成牛(21ヶ月齢)に、非標識区のサイレージのみを8日間乾物で6.1±1.0s/日(平均値±標準偏差)摂取させると、5日目までは試験開始前の飼養条件が全窒素の出納に影響を及ぼすが、その影響は残り3日間では認められない。次に標識区のサイレージに切り替えて14日間、同量給与しても排泄窒素割合は変化しない(図1)。すなわち、重窒素標識の有無にかかわらず、飼料CP含量が等しければ全窒素出納は変化しない。このときのふんの排泄量は12.3±2.1kg/日、尿の排泄量は5.0±1.6kg/日である。
- 非標識区から標識区のサイレージに切り替えると、ふん中の重窒素割合は5日目まで急激に高まり、その後も緩やかに増加する(図2)。前半の急激な増加は飼料の切替えに対応し、後半の緩やかな増加は内因性窒素の重窒素割合が徐々に増加したことを示唆する。したがって、飼料切替え後10日目以降のデータを用いて出納計算を行えば、切替え以前の飼料の影響を無視でき、内因性由来の重窒素量もまだ少ない段階と考えられるので、牧草由来のタンパク質消化率をより正確に見積もることができる。
- 標識飼料給与開始後11-14日目の全窒素による差引法では、1日1頭80.5gNを摂取した場合、ふんに60%、尿に35%が排泄され、5%に相当する3.9gNが牛体に蓄積する。これに対し、重窒素ではふんに40%、尿に16%が排泄され、44%が蓄積する(表1)。すなわち、摂取窒素の40%は消化されずに排泄され、60%が消化吸収された後、16%が速やかに尿に排泄される。このとき、摂取窒素の20%に相当する量の内因性窒素がふん中に、19%に相当する量の内因性窒素が尿中に排泄されるので、正味牛体に蓄積する窒素は摂取量の5%である(図3)。
- 以上の結果から算定したタンパク質消化率60%は、全窒素出納だけで算出した値よりも育成牛に摂取された本飼料のタンパク質消化率を正確に示している。
[成果の活用面・留意点]
- 反芻家畜で詳細に窒素動態を把握する場合に有用であるが、相応の資材・分析費を要する。
- 本成果の値は育成牛1頭の測定事例である。
平成17年度北海道農業試験会議(成績会議における課題名および区分)
「草地における重窒素標識乳牛堆肥およびスラリーに由来する窒素の動態」(研究参考)
[具体的データ]
[その他]
寒冷寡照・土壌凍結条件下における草地酪農地帯の環境負荷物質の動態解明に関する研究
予算区分:指定試験
研究期間:1999年及び2005年度
研究担当者:三枝俊哉、大坂郁夫、松本武彦、寳示戸雅之
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