泥炭土層へのリタ−バッグ埋設器具の開発と有機物の分解
[要約]
泥炭層を掘削せずにリタ−バッグを所定の深度に埋設できる器具を開発した。埋設2年後及び4年後に回収したリタ−バッグ中の濾紙の重量残存率は深部>浅部、未墾地>無置土耕地>置土耕地の順で、土壌水分や土壌のC/N比との関連が示唆される。
[キーワード]
泥炭、リタ−バッグ、有機物分解、地下水位、地盤変動、炭酸ガス
[担当]開土研・農業開発部・土壌保全研究室、北海道農研・水田土壌管理研究室
[連絡先]電話011-841-1754
[区分]北海道農業・生産環境
[分類]科学・参考
[背景・ねらい]
泥炭農地では排水に伴い、地盤沈下が生じ、農地の永続的使用に支障を来す場合がある。この対策樹立には地盤沈下や泥炭分解に対する各種要因の影響を解明する事が不可欠である。そこで、泥炭土層の攪乱を最小にして、リタ−バッグに入れた有機物を任意の深度に埋設する器具を開発し、有機物の分解程度を調査する。また、泥炭農地の標高や地下水位変動も継続して計測し、地盤沈下や泥炭分解の予測と対策の樹立に資する。
[成果の内容・特徴]
試験地を北海道農業研究センタ−水田土壌管理研究室美唄分室内の未墾地、無置土耕地及び置土耕地に設けた(無置土耕地と置土耕地は1984年以降、作付けがされていない圃場)。
- 2001年6-8月に、開発したリタ−バッグ埋設器具を用い(写真1上)、有機物を入れたリタ−バッグを3試験地の土層構成に応じ5深度に埋設した。この回収のため掘削した時 (2003年6月及び2005年8月)に、リタ−バッグが所定の深度に埋設されている事を確認し(写真1下)、開発した埋設器具は実用できる事が証明された。
- リタ−バッグ中の有機物の分解速度は松板<ミズゴケ<濾紙であり、濾紙の分解速度は深部<浅部、未墾地<無置土耕地<置土耕地である(図1)。
- CO2フラックスは、未墾地に比べ無置土耕地と置土耕地で高く推移する傾向にある(図2)。特に、6月から8月にかけてはこの傾向が顕著で、この期間の各地点におけるCO2フラックスの平均値(C-gm-2y-1)は、未墾地(198)<無置土耕地(243)<置土耕地(259)と、有機物分解の結果に対応する。
- 未墾地の地下水位は無置土耕地及び置土耕地よりも深く推移する(図3)。
- CO2フラックスに顕著な差がみられた6月から8月にかけて、土壌水分計で測定した表層(0-10cm)の土壌水分張力は、未墾地、無置土耕地及び置土耕地においてそれぞれ、pF0.7以下、pF2.8-3.2、pF3.8以上である。この順番はリタ−バッグ中の濾紙の分解速度と一致し、土壌の乾燥化が有機物の分解を促進する1要因と考えられる。
- 深さ約1.5mまでの泥炭土層のC/N比は未墾地(生活層を除き15.6-58.9)で置土耕地(置土層を含み、13.6-17.8)及び無置土耕地(15.2-20.1)より高い土層が多く、有機物の分解が遅い事との関連が示唆される。
- 3試験地での4年間の観測で、積雪期に地盤沈下し、夏秋期に回復するが、4年間での経時的に有意な沈下は認められない。
[成果の活用面・留意点]
- リタ−バッグ中の有機物分解速度等については今後も継続的な調査を予定している。
[具体的データ]
[その他]
予算区分:経常研究費
研究期間:2001〜2005年度
研究担当者:石田哲也、小野寺康浩、大日方裕、永田 修、石渡輝夫、安田道夫
発表論文等:1) 泥炭地用のリタ−バッグ埋設器具の開発とこれを用いた3種の有機物の分解量、土肥誌、76、187-191 (2005)
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