スクレイピー抵抗性羊群の作出と生産性の評価
[要約]
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スクレイピー抵抗性の遺伝子型による選抜は、繁殖成績、発育成績、肥育成績等の生産性に影響を及ぼさない。抵抗性ホモ種雄羊の継続的な交配により、道内羊群のスクレイピー抵抗性遺伝子頻度を高めることができる。
[キーワード]
- スクレイピー、PrP遺伝子型、抵抗性、感受性、生産性
[担当]道立畜試・家畜研究部・中小家畜飼養科 基盤研究部・感染予防科
[代表連絡先]電話0156-64-5321
[区分]北海道農業・畜産草地
[分類]技術・普及
[背景・ねらい]
- めん羊ではプリオンタンパク(PrP)遺伝子の多型によるスクレイピー抵抗性が知られている。この抵抗性遺伝子に基づいて後継羊を選ぶことにより抵抗性羊群を作出し、この遺伝子型による選抜が生産性に影響を及ぼさないことを検証する。また、道内生産農場におけるスクレイピー感受性・抵抗性PrP遺伝子型の分布を調査し、道内羊群へのスクレイピー抵抗性向上の方向性を提示する。
[成果の内容・特徴]
- 畜試のサフォーク羊群におけるPrP遺伝子型では、感受性に関わるコドン136はすべて非感受性のアラニン(A)ホモ(A/A)であり、感受性のバリン(V)は検出されていない。抵抗性に関わるコドン171には抵抗性のアルギニン(R)と非抵抗性のグルタミン(Q)が検出され、抵抗性ホモ(R/R)、抵抗性ヘテロ(R/Q)、非抵抗性ホモ(Q/Q)の3タイプが存在する。R/R雄羊の交配割合を高め、抵抗性Rの遺伝子頻度を高める育成羊の選抜により、羊群の抵抗性Rの遺伝子頻度は2002年の26%から2007年の66%に上昇している(図1)。
- 損耗率、雌羊の繁殖成績、子羊の発育成績、および雄子羊の肥育成績について実施した生産性の評価では、ほとんどの項目でPrP遺伝子型による有意差が認められない。発育成績では5、6カ月齢体重(表1)と体尺値の一部に有意差があるが、月齢の進行により解消している。肥育成績では乾草摂取量に有意差があるが、飼料要求率や生産された枝肉の量・質に影響はない。したがって、PrP遺伝子型のスクレイピー抵抗性Rを優先する選抜は生産性に影響を及ぼさない。
- 道内農場のサフォーク群調査では、抵抗性Rの遺伝子頻度は40%で、感受性のVの遺伝子頻度も1%あり、輸入群では、抵抗性Rの遺伝子頻度は29%とやや低い(表2)。PrP遺伝子型検査を実施した農場では、種雄羊を抵抗性ヘテロから抵抗性ホモに入れ替えることにより、生産子羊の抵抗性Rの遺伝子頻度を大きく向上させている。
- 抵抗性Rの遺伝子頻度が30%の繁殖雌羊群をモデルにすると、抵抗性ホモの種雄羊による交配を継続することにより、PrP遺伝子型の全頭検査をしなくても羊群のR遺伝子頻度を9年で80%程度まで高めることができる(図2)。
[成果の活用面・留意点]
- 畜試羊群はスクレイピー抵抗性ホモR/Rの比率が高くなっており、抵抗性種畜の供給により、道内羊群の抵抗性を向上させることができる。
- サフォークでは、生産性を低下させることなく抵抗性のPrP遺伝子型で選抜ができる。
- PrP遺伝子型のスクレイピー感受性や非抵抗性は、スクレイピー罹患を意味するものではない。
- 海外から新たな遺伝資源を導入する場合、特に種雄羊については感受性個体を持ち込まないことと、抵抗性ホモ個体の優先導入に留意する。
平成19年度北海道農業試験会議(成績会議)における課題名および区分
「スクレイピー感染抵抗性羊群の作出と生産性の評価」(普及推進)
[具体的データ]
[その他]
- 研究課題名:スクレイピー感染抵抗性羊群の作出と生産性の評価
予算区分:委託研究(BSEプロジェクト)
研究期間:2003〜2007年度
研究担当者:戸苅哲郎、小原潤子、國重享子、藤川朗、山田渥
発表論文等:小原次郎,戸苅哲郎,黒川彩,前田潤子,石黒直隆,吉岡秀文,堀内基広.
Frequencies of PrP genotypes in meat breeds of Japanese sheep and trail of selective breeding in experimental sheep flock. J.Vet.Med.Sci.2007:69(12);1325-1329
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