北海道美唄湿原ミズゴケ群落とササ群落の蒸発散の比較
[要約]
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美唄湿原ミズゴケ群落はササ群落に比べ蒸発散量が多く、前者では降雨の約80%、後者では約70%が蒸発散で消費される。蒸発散推定手法としてのライシメータ法は、設定水位が現地の地下水位環境を反映する場合、ササ群落でも利用可能である。
[キーワード]
- 蒸発散、ミズゴケ群落、ササ群落、美唄湿原、ライシメータ法
[担当]北海道農研・寒地温暖化研究チーム、北海道大学
[代表連絡先]電話011-857-9260、電子メール seika-narch@naro.affrc.go.jp
[区分]北海道農業・生産環境
[分類]研究・参考
[背景・ねらい]
- 北海道には湿原が多く存在するが、周辺の農地化や宅地化により、原植生ではないササなどの繁茂により荒廃が進んでいる。植生変化は、湿原からの蒸発散をも変化させ、湿原の水環境を大きく変える要因となる。植生群落で蒸発散を比較した事例では、ササ群落に比べ、ミズゴケ群落の蒸発散量が大きい事例(木村・高橋,1992:(月が湖湿原))や、逆に、ササ群落で大きくなる事例(Takaki et a., 1998;(サロベツ湿原))が報告されている。本研究では、美唄湿原を対象に、コンテナを用いたライシメータ法と微気象学的手法によりミズゴケ群落とササ群落の蒸発散を比較した。
[成果の内容・特徴]
- コンテナを用いたライシメータ法によるササ群落の蒸発散は、ライシメータ内の設定水位により異なる(図1)。ライシメータ法とボーエン比法で求められた値の間には、いずれの設定水位においても有意な正の相関がみられたが(-5cm;r=0.55(p<0.05)、-15cm;r=0.85(p<0.01)、-25cm;r=0.83(p<0.01))、ボーエン比法の測定期間(5月2日〜8月24日)における現場平均地下水位(-11cm)に近い設定水位で、最も近似する。コンテナを用いたライシメータ法による蒸発散の測定は、設定水位が現地の地下水位環境を反映する場合、ササ群落においても利用可能である。 設定水位が-5cmの場合、-15cm、-25cmに比べ相関係数が小さくなったが、地下水位が高い場合、呼吸が妨げられることで根からの吸水が阻害されると考えられる。
- ミズゴケ群落の蒸発散量は、ライシメータ法、微気象学的手法により算出した値とも、ササ群落に比べ大きい(図2)。
- 2006年5月6日〜2006年11月1日の積算雨量は700mmあり、ササ群落では約70%、ミズゴケ群落では約80%が蒸発散により消費される(図2)。
[成果の活用面・留意点]
- 湿原の水収支を把握するための基礎資料となる。
- 測定は無積雪期間に行われたものである。
- 湿原のササ群落にはヤチヤナギの他、ウルシも存在し、ササ群落のライシメータ内はヤチヤナギも存在する。
- 根からの吸水が蒸発散に大きく寄与する植物が含まれる場合は、設定水位が高くならない等、現地の水位変動を把握しておく必要がある。
[具体的データ]
[その他]
- 研究課題名:寒地における気候温暖化等環境変動に対応した農業生産管理技術の開発
課題ID:215-a
予算区分:公害防止
研究期間:2003〜2007年度
研究担当者:永田 修、長谷川周一(北海道大)、藤本敏樹(北海道大)、鮫島良次
発表論文等:藤本ら、(2006)土壌の物理性、103:39-47
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