飼料作物病害図鑑

トウモロコシ 赤かび病 リスク評価スコア3.0 (3,3,3)

病徴 病原菌
F. verticillioidesの連鎖した小型分生子
病原菌
F. verticillioidesのコロニー
病原菌
F. asiaticumの大型分生子
病原菌
F. asiaticumのコロニー

病徴:糸状菌病の一種で、子実に淡紅色または鮭肉色のかびを生じる。病勢が進むと紫黒色となり、穂軸まで侵されることもある。全国に発生。

病原菌:Fusarium asiaticum O'Donnell, T. Aoki, Kistler & Geiser, F. fujikuroi Nirenberg, F. proliferatum (Matsushima) Nirenberg ex Gerlach & Nirenberg, F. concentricum Nirenberg & O'Donnell, Gibberella zeae (Schweinitz) Petch (= F. graminearum Schwabe), G. moniliformis Wineland (=G. fujikuroi mating population A = F. verticillioides (Saccardo) Nirenberg)、子のう菌
日本で発生するトウモロコシ赤かび病は、Fusarium graminearum種複合体に属するF. graminearum s.str.とF. asiaticumおよびGibberella fujikuroi種複合体に属するF. fujikuroiF. proliferatum, F. verticillioidesF. concentricumによって引き起こされる(湊・出口 2006, 湊 2009, 岡部ら 2008a, 2010b, 月星ら 2011a, 2012b, Kawakami et al. 2015)。その他、外見上健全なトウモロコシ子実からF. equiseti, F. incarnatumも分離されている(上垣ら 2012a)。これらの菌はかび毒(マイコトキシン)を産生することでも知られており、F. graminearumはデオキシニバレノール(DON)などのトリコテセン系毒素(湊ら 2010)およびゼアラレノンを、F. verticillioidesはフモニシン類を産生し(岡部ら 2008b, 三ツ橋 2013, 月星 2015)、これらは家畜に様々な健康被害を引き起こす可能性がある(平岡 2015)。また、健全な材料草およびサイレージにもFusarium属菌は存在する(月星ら 2008f, 2009d, 2010c)。Fusarium属菌は圃場の常在菌であり、Fusarium属菌を完全になくすことは困難であるため、菌の増殖と毒素産生開始を抑制することが防除(下記)の中心となる。


生理・生態:北海道のトウモロコシ圃場では8月中〜下旬にF. graminearum分生子飛散が顕著となり、また、8月中旬以降に植物体からF. graminearumが分離されることから、菌の侵入・感染は主にこの時期と推定される(湊ら 2007, 飯田ら 2007a)。また、絹糸抽出期前後の約10日間の大雨で発病やカビ毒蓄積が増加するとされる(佐藤 2020)。北海道産のトウモロコシサイレージからは基準値超過は稀だが、DONの高率な検出が報告されている(湊ら 2019)。本州以南においての赤かび病菌の感染時期は特定されていないが、植物体中のDONおよびフモニシンは絹糸抽出4週後以降に増加を始める(岡部ら 2009, 2010a, 2011a, 2015)。九州での作付体系による汚染状況が報告されている(笹谷ら 2015)。DONを産生するF. graminearumは雄穂開花期には分離され始め、糊熟期には茎と葉から0.5ppm以上の濃度でDONが検出される(出口ら 2007)。フモニシンは病徴の激しい穂の上半分で特に濃度が高い(Uegaki et al. 2015)。また、DON汚染は葉鞘が中心であり、倒伏により汚染が全体に及ぶ(飯田ら 2007b)。加水分解によってかび毒を遊離するT-2グルコシドなど新規かび毒配糖体が検出された(中川 2012)。他方、種子伝染の可能性も排除できない(本間 1986)。雌穂が物理的損傷や虫害被害を受けると子実のカビ毒濃度が増加する(岡部 2017a, 内野ら 2019, 湊ら 2019)。赤かび病の発病程度とかび毒含量は相関が認められるとする報告があるが(飯田ら 2012, 2014, 月星ら 2013b)、子実損傷・カビ程度・発病程度と植物体中のDON含量の相関が認められない場合もあり(出口ら 2005, 魚住ら 2012a)、肉眼的には異常が認められなかったサンプルからカビ毒が検出されることも多いため(住吉ら 2018)、外観のみから汚染程度を判断するのではなく、常にかび毒汚染防止(次項)を念頭においた管理が必要である。

防除法:赤かび病菌毒素による汚染を防ぐ方法は大別して、収穫後(ポストハーベスト)の対策と収穫前すなわちトウモロコシ栽培における対策に分類される。ポストハーベストの対策として重要なのはサイレージ調製中に十分な嫌気条件を保ち、貯蔵中の衛生管理をしっかりと行うことである(Uegaki et al. 2013b, 平岡 2015, 湊ら 2019)。嫌気条件下でpHが速やかに低下する場合、F. graminearumは死滅し、サイレージ調製期間中のDON増加はない(飯田ら 2007a)。トウモロコシ栽培における対策として、早期播種はかび毒濃度を低下させるとされている(魚住ら 2012a, 2015)。フモニシンはトウモロコシの登熟が進むにつれて増加するため(岡部ら 2009, 2010a, Okabe et al. 2015, 上垣ら 2012a, 2012c)、収穫時には刈り遅れの防止が重要である。また、高度の圃場抵抗性を持つ品種を選択することが望ましく、自然発生圃場や接種試験において抵抗性に関する品種間差(三木ら 2008, 2010, 魚住ら 2011, 2015, 江原ら 2011, 湊ら 2011, 2015c, 月星ら 2012b, 2013b, 濃沼ら 2013, 黄川田ら 2014)および接種胞子濃度や接種時期が発病度に及ぼす影響(湊ら 2012a, 2012b, 2014, 2015a, 2015b)が報告されている。ただし、注射法など有傷接種では自然感染でのフモニシン蓄積抵抗性程度の評価と異なることがあるが(岡部ら 2011b, 2013a, 2013b, 2014)、自然感染で発病率が高い品種はフモニシン濃度が高いことが知られる(魚住ら 2013)。プロピコナゾール乳剤によりすす紋病を防除した圃場では赤かび病に対しても防除効果があるが、本薬剤は赤かび病に対して現在は農薬登録がないため、生産圃場での使用はできない(出口ら 2014)。抵抗性およびカビ毒蓄積性の検定が行われ(黄川田・佐藤 2017, 三ツ橋ら 2017, 2019, 岡部 2017b)、赤かび病抵抗性が強く、かび毒の濃度も低い抵抗性品種が報告されている(濃沼・伊東 2011, 魚住ら 2012b)。赤かび病発病に対するトウモロコシ自殖系統間の抵抗性組合せ能力が調査されている(黄川田ら 2015)。DON分解能を持つ細菌(Devosia sp.)を絹糸抽出期に雌穂に接種すると毒素産生低減効果がある(小板橋ら 2019)。

総論:湊(2009, 2012c, 2019), 岡部(2010b), 月星(2011c, 2019), 汚染対策マニュアル(日本科学飼料協会), 菅原(2019)


畜産研究部門(那須研究拠点)所蔵標本 なし

(月星隆雄,畜産研究部門,畜産飼料作研究領域,2021)


本図鑑の著作権は農研機構に帰属します。

前のページに戻る