受精卵移植を用いた交雑種一産取り肥育の枝肉成績と経済性


[要約]
交雑種肉用牛の雌に黒毛和種胚を移植し、分娩後に肥育する。通常肥育と比較して、ロース芯面積の減少、脂肪交雑の低下が見られるが、肥育期間の延長により枝肉重量は同等となる。経済的には一産取り肥育にメリットが生まれる。

[キーワード]交雑種肉用牛、肥育

[担当]愛知農総試・畜産研究部・牛グループ
[代表連絡先]電話:0561-62-0085
[区分]関東東海北陸農業・畜産草地(大家畜)
[分類]技術・参考

[背景・ねらい]
交雑種肉用牛(F1)は、黒毛和種より産肉性に優れ、ホルスタイン種より肉質が良い。そのため、肥育牛としての生産が増加しており、愛知県における肉用牛の約6割をF1が占めている。このうちの約半数は雌であるが、雌は去勢に比べ枝肉重量が小さく、肉質面で劣る。そのため収益が少なく、雌としての特性を活かした生産方法の開発が望まれている。一方、近年黒毛和種胚移植(ET)技術が確立し現場に普及している。本研究成果情報は、F1の雌において、ETを利用した一産取り肥育を行った場合の、産肉性や肉質、経済性を検討するものである。

[成果の内容・特徴]
1. 13〜15か月齢の期間に発情兆候があった牛へETを行い、受胎区(3頭)、不受胎区(2頭)に分ける。給与飼料は、12か月齢まで、育成飼料(TDN:72.0%、CP:18.1%)、以降を肥育用飼料(TDN:72.4%、CP:12.9%)とする(表1)。過肥による分娩時事故を防止するため、受胎区については16か月齢以降分娩までは肥育用飼料を3kg/日、ヘイキューブを1kg/日給与し、ライグラスストローを不断給与する。分娩後は、肥育用飼料を最大9kg/日まで順次増給し、ライグラスストローを不断給与する。不受胎区は16か月齢以降肥育用飼料を順次増給し、最大9kg/日給与する(図1に給与体系図)。
2. 受胎区では、分娩により体重減少が見られるが、6か月の飼い直し期間を設けることで、枝肉重量は不受胎区と同等となる(表2)。出荷月齢は、不受胎区が約26か月齢であるのに対し、受胎区は約29か月齢となる。
3. ロース芯面積は、受胎区に比べ不受胎区が有意に大きくなる。また、脂肪交雑も受胎区に比べ不受胎区が優れる傾向にある。これらは、一産取りのための飼養管理の影響と考えられる(表2)。
4. 経済性を比較すると、受胎区と不受胎区で統計処理上有意差はないが、一産取り肥育による経済性のメリットが生まれる可能性が示唆される(表3)。また、当場の慣行法により肥育した場合との比較では、枝肉販売価格は低くなるが、子牛販売増によって、利益を増やすことができる可能性がある。

[成果の活用面・留意点]
1. 交雑種一産取り肥育は現場での関心が高く、研究成果情報は技術面、経営面において一つの指標を与えるものである。
2. 一産取り肥育を実践する場合、分娩前後の飼養管理技術が重要であるため、分娩に慣れている酪農家にとっては導入しやすい技術となり得るが、肥育農家が実践する場合には、過肥による分娩事故の発生などに注意が必要である。

[具体的データ]
図1 飼料給与内容
表1 濃厚飼料の配合割合と成分   表2 枝肉および肉質成績
表3 経済性調査

[その他]
研究課題名:交雑種雌牛の一産取り肥育による枝肉成績と経済性
予算区分:県単
研究期間:2005〜2007年度
研究担当者:森下忠・瀧澤秀明・榊原隆夫
発表論文等:愛知県農業総合試験場研究報告第39号

目次へ戻る