家畜福祉を視点に採卵鶏の飼養システムの産卵成績、健康状態等を比較


[要約]
[要約]放牧、福祉ケージ等の採卵鶏の飼養システムを比較すると、産卵成績には大きな差がない。放牧と平飼いは、卵殻が厚い傾向で色が薄く、また健康状態が良好である。バタリーケージは、ストレス反応が強く、また細胞性免疫機能が低い傾向があることが推察される。

[キーワード]家畜福祉、採卵鶏、放牧、福祉ケージ、産卵成績、ストレス反応

[担当]神奈川畜技セ・畜産工学部
[代表連絡先]電話:046-238-4056
[区分]関東東海北陸農業・畜産草地(中小家畜)
[分類]研究・参考

[背景・ねらい]
アニマルウェルフェアの先進国であるEU諸国では、2012年以降、採卵鶏のバタリーケージによる飼養が禁止されており、国際獣疫事務局(OIE)でも世界動物福祉基準を現在検討している。このような世界情勢の中で、わが国においても、採卵鶏の家畜福祉に配慮した飼養方法を早急に確立する必要があり、そのための科学的根拠として、各種飼養システムにおける生産性、福祉性等の違いを多面的に調査する研究が求められている。そこで、採卵鶏について、6つの異なる飼養システムにおける産卵成績、健康状態、免疫活性等の比較を行う。

[成果の内容・特徴]
1. バタリーケージ(小型、大型)、止まり木、巣箱等を備えた家畜福祉に配慮した福祉  ケージ(小型、大型)、平飼いおよび放牧の各飼養システムで、採卵鶏を16週齢から 80週齢まで飼養した。各システムにおける1羽あたりの床面積は表1に示す。
2. 産卵成績は飼養システム間に有意な差は認められず、生存率は小型福祉ケージで100%と小型バタリーケージ、放牧と比較して高い(表1)。なお、死亡鶏が認められたシステムでの死因については、半数以上が尻つつきによるものと思われる。
3. 放牧と平飼いは、ケージシステムと比較して、卵殻が厚い傾向があり、卵殻色は薄い(表1)。
4. 放牧、平飼いは、冠の血色が良く、腹腔内脂肪重量割合(表1)が少なく脂肪肝の程度が軽い傾向にあることから、ケージシステムより健康状態が良好である。
5. 小型、大型バタリーケージは、血液中の偽好酸球/リンパ球(H/L)比が有意に高く(図1)、肉垂への皮内注射による遅延型過敏反応が小さい傾向がある(図2)ことから、ストレス反応が強く、細胞性免疫機能が低い傾向があると推察される。

[成果の活用面・留意点]
1. 快適性と経済性のバランスがとれた飼養管理方法を検討するための基礎的情報となる。
2. 放牧、平飼いでは、飼養密度等によっては脚部損傷や敵対行動による損耗がケージシステムより増加するという報告がある。

[具体的データ]
表1 各飼養システムにおける床面積、産卵成績、生存率、卵質、健康状態
図1 H/L比  図2 遅延型過敏反応(肉垂の腫脹差)

[その他]
研究課題名:家畜福祉に配慮した採卵鶏の飼養技術の検証
予算区分:県単
研究期間:2005〜2010年度
研究担当者:平原敏史、新村 毅( 麻布大)、田中智夫 ( 麻布大)、小嶋信雄、山本 禎

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