ヒペリカム生理障害の発生要因


[要約]
ヒペリカムの葉焼け症状は苦土欠乏により発生する。加里欠乏では葉の黄化及び褐変が生ずる。りん酸欠乏では葉が赤紫色に変色し後に褐変する。白化症状は尿素系肥料に副成分として含まれるビウレットにより発生する。

[キーワード]ヒペリカム、生理障害、葉焼け症状、白化症状、ビウレット

[担当]長野県南信農試・栽培部、病害虫土壌肥料部
[代表連絡先]電話:026-235-2240
[区分]関東東海北陸農業・花き
[分類]技術・参考

[背景・ねらい]
ヒペリカムの切り枝及び鉢物生産現場では葉焼け症状と呼ばれる葉の褐変や白化症状等、様々な生理障害が発生し生産上の問題となっている。ここでは発生原因となっていることが予想される各肥料成分の欠乏及び尿素中に含まれるビウレットの障害を再現することで各生理障害発生との関係を明らかにする。

[成果の内容・特徴]
1. 苦土を欠乏させた場合、下位葉を中心に葉の中央脈を挟んで概ね左右対称に褐変が発生し、切り枝本数および着果数が減少する。苦土含有率は茎葉で減少程度が大きく果実と比較して少なくなる(表1図1)。
2. 加里を欠乏させた場合、葉の周縁部の葉脈間が黄化すると共に部分的に褐変する症状が発生する。葉はやや萎縮する。切り枝本数が減少し切り枝長が短くなる(表1図1)。
3. りん酸を欠乏させた場合、下位葉から徐々に赤紫色に変色する症状が進展し、切り枝本数および着果数は著しく減少する(表1)。
4. 葉の白化症状は、尿素系肥料に副成分として含まれるビウレットにより発生する。ビウレットの限界施用量は約5g/aである(表2図1)。

[成果の活用面・留意点]
1. 苦土欠乏と加里欠乏は症状が類似しているため注意する。
2. 石灰欠乏の症状について本試験では再現できなかった。
3. ビウレット(H2N-CO-NH-CO-NH2)は製造工程で尿素を融点(約133℃)以上に加熱した場合、2分子の尿素が結合して発生する。尿素系肥料(尿素、被覆尿素、CDU、IB、ウレアホルム)について、肥料取締法ではビウレット性窒素は窒素全量の2%以下であることが定められている。
4. 要素欠乏の再現試験は赤玉土を用いたコンテナ栽培、ビウレットによる白化症状の再現試験は露地栽培(淡色黒ぼく土)での試験である。障害の発生状態は土壌や肥料バランス等によって変化する可能性があるため注意する。

[具体的データ]
 表1 各肥料成分を施用しない場合の切り花品質及び植物体の成分含有率(2007)
 表2 ビウレット及び尿素施用がヒペリカムの白化症状に及ぼす影響(2008)
図1 障害の発生状況(左:苦土無施用、中:加里無施用、右:ビウレット20g/a 施用)

[その他]
研究課題名:花きの高位安定栽培技術
予算区分:県単
研究期間:2006〜2008年度
研究担当者:神谷勝己、齋藤龍司

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