イチゴ幼苗セル成型苗の大量生産に適した2段式採苗システム


[要約]
イチゴの2段式採苗システムは、低温寡日照期の栽培にも適するよう2段に配置した親株栽培ベッド及び1次ランナー子株を1節で切断する採苗法を組み合わせたシステムで、慣行比2〜3倍の採苗が可能である。

[キーワード]イチゴ、幼苗セル成型苗、大量採苗、2段式採苗システム

[担当]愛知農総試・園芸研究部・野菜グループ
[代表連絡先]電話:0561-62-0085
[区分]関東東海北陸農業・野菜
[分類]技術・参考

[背景・ねらい]
大規模経営による周年生産を実現するためには苗を購入することが重要であるが、イチゴ栽培では、単位面積当たりの栽植本数が多く、需要が9月の一ヶ月に集中するため苗の分業化は進んでいない。この育苗の分業化を進めるために、本葉2〜3枚の幼苗を用いたセル成型苗による長期大量生産が必要であり、安定した大量採苗法が求められている。そこで親株の栽植密度と一株あたりのランナー子株採苗数の向上を目的に、2段式の採苗ベッドを採用し、従来の1〜4次のランナー子株を一度に採苗する方法に換えて、ランナー子株が適切な大きさになり次第収穫する苗生産業者・農家向けの採苗システムを開発する。

[成果の内容・特徴]
1. 発泡スチロールプランターを図1のように2段式に設置したベッドを南北方向に設置すれば、周年を通してランナーの発生に必要な全天日照に対して40 %以上の日射量が確保できる。慣行の一段式高設栽培ベッドと比較して、親株の栽植密度は慣行の1.85 倍の13,200 株/10a である。
2. ランナーは、1次子株が本葉2枚展開した時点で切り取る。このときランナーの途中にある節のうち根元側の1節を残して切断し、節から発生する新たなランナーも苗として利用する(以下「1次ランナー1節切り」)。この方法は、苗齢の揃った子株が収穫できる。慣行の多数のランナー子株をたれ下げておく空中採苗法と比べて株の負担が少ないため、株あたりの採苗数は向上する(図2)。
3. 2段式採苗システムと1次ランナー1節切りによる採苗法によって、幼苗セル成型苗に適した本葉2葉の採苗数は、高温多日照期には採苗期間2ヶ月間で「とちおとめ」は11万7千株/10a(慣行比3.0倍)、「章姫」は14万株/10a(3.2倍)である(図3)。低温寡日照期は採苗期間4ヶ月間で「とちおとめ」11万8000株/10a(2.1倍)、「章姫」17万9千株/10a(2.0倍)である(図4)。周年生産を行うと、「とちおとめ」で79万株/10a、「章姫」で74万株/10a採苗できる(データ略)。

[成果の活用面・留意点]
1. この採苗システム及び採苗方法は、幼苗セル成型苗を生産する苗生産業者、苗専業農家に適する。他で開発されたランナー子株の冷蔵貯蔵技術、幼苗セル成型苗の直接定植技術との組み合わせで、親株用苗も含めた種苗の長期大量供給が可能である。
2. 採苗システムの上下段では、低温寡日照期には上段の発生が良く、高温多日照期には当初、同様に発生するが、気温の上昇とともに下段の発生が良くなる傾向がある。上下段の生育を調整できるように、給液を別系統とする。また、夏季に向かっての栽培では、40%程度の遮光が望ましい。
3. 冬季の栽培には、電照(16時間長日条件)と加温(12℃)が必要である。

[具体的データ]
図1 2段式採苗システムの概要  図2 ランナーの切除位置が展開葉数2.5枚の株当た
りランナー子株採苗数に与える影響
図3 高温多日照季の2段式採苗システムでの栽培における幼苗セルに適したランナー子株の10a当たり収穫本数  図4 低温寡日照季の2段式採苗システムでの栽培における幼苗セルに適したランナー子株の10a当たり収穫本数 width=

[その他]
研究課題名:幼苗セル成型苗の長期大量生産技術の確立
予算区分:委託プロ(実用技術)
研究期間:2006〜2008年
研究担当者:齋藤弥生子、樋江井清隆、武井真理、番喜宏

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