富山県産伝統食品(いか黒作り)の微生物特性


[要約]
市販いか黒作りの菌相は、乳酸菌が優占するものもある。発酵食品の菌相解析には、16S rDNA クローンライブラリ法が有力な方法である。

[キーワード]いか黒作り、菌相、乳酸菌、クローンライブラリ法、16S rDNA

[担当]富山農総技食研・食品化学課
[代表連絡先]電話:076-429-5400
[区分]関東東海北陸農業・流通加工
[分類]研究・参考

[背景・ねらい]
富山県の伝統食品であるいか黒作りは、いか墨を加えた塩辛で、独特の風味と外観で全国的にも高い評価を得ている。このいか黒作りの風味は、微生物による発酵によって風味が醸成されると考えられるが、その微生物相に関する最近の知見は乏しい。また、その製法も経験的、伝承的な技術に依存しており、しばしば品質のばらつきも見られる。本課題では、市販のいか黒作り3種について、最新の分子生物学的手法を用いて菌相解析を行い、いか黒作りの品質向上と安定化のための知見とする。

[成果の内容・特徴]
1. 寒天培地上に生育した任意のコロニー50個について、16S rDNAをPCR法により増幅し、ARDRA法 (Amprified Ribosomal DNA Restriction Analysis) によりグループ分けし、その塩基配列を解析して菌種を同定した。その結果試料A, Bは Staphylococcus 属、試料Cは乳酸菌に属する Weissella 属が優占種であった。(表1
2. 試料から直接DNAを抽出し、これを鋳型として16S rDNAをPCR法により増幅し、大腸菌プラスミドに挿入してライブラリを構築した (16S rDNAクローンライブラリ)。任意の50クローンについて16S rDNAを増幅し、ARDRA法によりグループ分けして塩基配列を解析したところ、試料Bは乳酸菌に属する Weissella 属が優占種であった。(表2
3. 試料Aから分離した Staphylococcus saprophyticusLactobacillus sakei は、近縁種に比べ10℃における増殖速度が著しく大きい。(図1

[成果の活用面・留意点]
1. 16S rDNAクローンライブラリ法は、食品中の培養困難な微生物相解析の有力な手段である。
2. 従来知られていたいか塩辛、黒作りの優占種は、Staphylococcus 属で、乳酸菌を主体とする菌相を有するものがあることは、ほとんど知られていない。
3. 分離した低温増殖性に優れる菌は、他の発酵食品への応用が期待できる。

[具体的データ]
表1 寒天培地に生育したコロニーによる菌相解析
表2 16S rDNAクローンライブラリ法による菌相解析
図1 黒作り分離株 (S. saprophyticus KSAPとL. sakei TYK2)と近縁菌の10℃における増殖速度の比較

[その他]
研究課題名:県産伝統食品の微生物特性の解明
予算区分:県単
研究期間:2004~2007年度
研究担当者:横井健二

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