ミルキークイーンの出穂性同質遺伝子水稲新品種候補系統「関東IL7号」


[要約]
「関東IL7号」は、「ミルキークイーン」の遺伝的背景に出穂遺伝子 Hd1を含むインド型品種「Kasalath」の染色体断片約560kbを有する低アミロース米系統である。出穂性は、「ミルキークイーン」と比較して関東では早生に亜熱帯環境では晩生になる。

[キーワード]イネ、出穂、低アミロース、同質遺伝子系統、良食味

[担当]作物研・稲マーカー育種研究チーム、低コスト稲育種研究チーム
[代表連絡先]電話:029-838-8950
[区分]作物、関東東海北陸農業・関東東海・水田作畑作
[分類]技術・参考

[背景・ねらい]
低アミロース米水稲品種「ミルキークイーン」は、飯の粘りが強く冷めても硬くならず良食味であることが市場で高く評価されている。「ミルキークイーン」型で熟期の異なる品種はほとんど無いため、「ミルキークイーン」型品種の産地拡大を図るため、コシヒカリの出穂性同質遺伝子系統群を母本に用いて早生〜晩生熟期品種の早期開発を図った。

[成果の内容・特徴]
1. 「関東IL7号」はKasalath由来の Hd1 遺伝子を持つ「コシヒカリ」早生同質遺伝子系統「和系243」と「コシヒカリ」の突然変異品種「ミルキークイーン」の交配後代からDNAマーカー選抜で育成された「ミルキークイーン」の同質遺伝子系統である(図1)。
2. 出穂期は、育成地では「ミルキークイーン」より13日、「あきたこまち」より3日早生の"極早生"熟期に属する。沖縄県(名護)では同3日晩生である(表1)。
3. 稈長は、育成地では「ミルキークイーン」より約10cm短く「あきたこまち」並である。穂数は「ミルキークイーン」並かやや多く、草型は"偏穂数型"である。沖縄では、稈長は「ミルキークイーン」と同じかわずかに長く、穂数は同等かやや少ない(表1)。
4. 育成地での玄米重は「ミルキークイーン」よりわずかに少なく「あきたこまち」よりやや多収である。沖縄では同10%多収である(表1)。
5. 耐倒伏性は、育成地では「ミルキークイーン」よりやや優る"やや弱"である(表1)。
6. いもち病真性抵抗性遺伝子型は+型と推定される。圃場抵抗性は、葉いもちが"弱"、穂いもちが"弱"である。白葉枯病抵抗性は"中"である(表1)。
7. 耐冷性は「コシヒカリ」よりやや劣る"やや強"である(表1)。
8. 穂発芽性は「ミルキークイーン」並の"やや難"である(表1)。
9. 玄米の外観品質はミルキークイーン並の"中の中"である(表1)。
10. 「ミルキークイーン」と同じ低アミロース遺伝子 Wx-mq を有し、アミロース含有率は、「ミルキークイーン」と同等かわずかに低い(表1)。
11. 炊飯米の食味は、粘りがあり「ミルキークイーン」と同等かやや劣るが「あきたこまち」に優る(表1)。

[成果の活用面・留意点]
1. 「ミルキークイーン」と比較して、温暖地では早期出荷が可能であり、沖縄ではやや晩生で多収の低アミロース米品種として活用が期待される。
2. いもち病抵抗性、耐倒伏性が不十分なので、適正な防除を行い、極端な多肥を避ける。
3. 耐冷性が不十分なので、冷害の危険のある地帯での栽培には留意する。

[具体的データ]
表1.関東IL7号の特性
図1.関東IL7号のグラフ遺伝子型

[その他]
研究課題名:食味、高品質、出穂性QTLを導入した同質遺伝子系統の育成
課題ID:221-g
予算区分:委託プロ(ゲノム育種、新ゲノム)
研究期間:2002〜2008年度
研究担当者:竹内善信、安東郁男、根本博、加藤浩、平林秀介、太田久稔、石井卓朗、前田英郎、竹本陽子、井辺時雄、佐藤宏之、平山正賢、出田収

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