新しく見出されたオオムギ縞萎縮ウイルス系統


[要約]
栃木県および山口県で見出したオオムギ縞萎縮ウイルス(BaYMV)系統は、既知の系統と病原性が異なるW型およびX型である。また、「スカイゴールデン」、「木石港3」、「中泉在来」は、T〜X型のいずれにも抵抗性を示し、育種に有効である。

[キーワード]オオムギ、オオムギ縞萎縮ウイルス、抵抗性、病原性分化

[担当]栃木農試・栃木分場・二条指定・品質指定
[代表連絡先]電話:0282-27-2711
[区分]作物、関東東海北陸農業・関東東海・水田作畑作
[分類]研究・参考

[背景・ねらい]
二条大麦生産において、最も重大な病害はオオムギ縞萎縮病で、罹病すると著しく収量や品質が低下する。その病原ウイルス(オオムギ縞萎縮ウイルス;以下BaYMV)は系統分化が認められ、それぞれの系統に対して抵抗性となる品種の育成が重要である。
 今回、栃木県および山口県において、現在の主要BaYMV抵抗性遺伝子 rym3 を持つ品種の罹病が確認され、それらの同定と抵抗性母本の検索を行った。

[成果の内容・特徴]
1. 栃木県大田原市(以下大田原)および山口県山口市(以下山口)のBaYMV系統は、大麦品種の抵抗性反応の結果、既知のBaYMVT〜V型と異なる新しい系統である(表1)。
2. 大田原系統は、ウイルスゲノムの塩基およびアミノ酸配列の相同性検索の結果、外被蛋白質(以下CP)は山口ほ場で採取されたW型(岡田ら2006)と100%一致し(データ省略)、既知のT〜V型と一致しなかった(表2)。このことから、大田原系統はW型である。
3. 山口系統は、ウイルスゲノムの塩基およびアミノ酸配列の相同性検索の結果、T〜W型と一致せず(表2)、アミノ酸配列を基に系統樹の類縁関係からも分化性が明らかとなり(図1)、新型のX型である。なお、山口ほ場内でBaYMVに罹病している rym3 を持つ品種や判別品種より採取したBaYMVは全てX型のみでW型は検出されなかった(データ省略)。
4. W型とX型の判別は、「早木曽2号」または「浦項皮麦3」と「三月」を判別品種として用いることにより、可能である(表1)。
5. 「スカイゴールデン」、「木石港3」、「中泉在来」は、T〜X型のいずれにも抵抗性を示し、BaYMV抵抗性母本として有効である(表1)。

[成果の活用面・留意点]
1. オオムギ縞萎縮病抵抗性育種および抵抗性遺伝子の判別・選抜に利用できる。
2. 大麦育種において、スカイゴールデンや木石港3と同様に抵抗性遺伝子を集積させることがオオムギ縞萎縮病抵抗性育種に有効である。

[具体的データ]
表1 BaYMV系統に対する大麦品種の抵抗性反応
表2 CP(外皮蛋白質)の相同性検索結果
図1 CP(外皮蛋白質)アミノ酸配列を基にした系統樹

[その他]
研究課題名:栃木県および山口県で見出された新しいオオムギ縞萎縮ウイルス系統調査
予算区分:県単、指定試験
研究期間:2004〜2007年度
研究担当者:五月女敏範・西川尚志(宇都宮大学)・加藤常夫・渡邉浩久・大関美香・夏秋知英(宇都宮大学)・長嶺敬(近中四農研)・河田尚之(九沖農研)
発表論文等:Nishigawa.H et al. 2008. Archives of Virology 153:1783-1786.

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