突然変異系統を用いた白葉枯病圃場抵抗性構成遺伝子群の同定・単離方法


[要約]
レトロトランスポゾン Tos17 によって遺伝子が破壊された「日本晴」由来の水稲突然変異系統から白葉枯病の圃場抵抗性が失われた系統を選抜し、遺伝子が破壊した領域を探索することによって圃場抵抗性を構成している多数の原因遺伝子を同定・単離できる。

[キーワード]白葉枯病、 Tos17 、突然変異系統、日本晴、圃場抵抗性遺伝子

[担当]中央農研・稲遺伝子技術研究北陸サブチーム
[代表連絡先]電話:025-526-3215
[区分]関東東海北陸農業・北陸・水田作畑作、作物
[分類]研究・参考

[背景・ねらい]
植物の真性抵抗性遺伝子は効果の大きい一遺伝子によって制御されているが、圃場抵抗性は複数の遺伝子が関わっている菌のレースに依らない病害抵抗性であるため抵抗性を構成している遺伝子を同定することが困難である。イネ品種「日本晴」は白葉枯病真性抵抗性遺伝子を持たず、圃場抵抗性は「やや強」である。本成果情報では「日本晴」の白葉枯病圃場抵抗性を構成している多数の遺伝子を単離するために、レトロトランスポゾン Tos17 の挿入で圃場抵抗性が失われた突然変異個体を選抜し、 Tos17 によって機能が失われた遺伝子を同定する方法について検討する。

[成果の内容・特徴]
1. 圃場抵抗性は機能の類似した多数の遺伝子の集積効果であるため、白葉枯病圃場抵抗性を構成する遺伝子の単離には Tos17 を用いたタギング法が有効である。
2. 本方法による圃場抵抗性遺伝子群の同定・単離手順を図1に示す。「日本晴」は白葉枯病に対して圃場抵抗性を持つ品種であり、圃場抵抗性「弱」である「コシヒカリ」等に比べて白葉枯病斑の進展が菌のレースに関わりなく抑制される。Tos17 による突然変異系統に白葉枯病菌を接種し、3週間後の病斑長の調査を行う。これらの中から白葉枯病菌のレースTからレースXまでに対する抵抗性が共に失われ、病斑が著しく進展した突然変異系統を選抜する。
3. 突然変異系統から抽出したゲノムDNAをゲノミックサザン法で分析し、 Tos17 シグナルを調査する。さらにその後世代にも白葉枯菌接種検定を行うことによって、圃場抵抗性が失われる原因となった Tos17 を特定する。
4. Inverse-PCR法等によって Tos17 が挿入された隣接領域の塩基配列を解析し、 Tos17 が挿入された染色体領域を特定する。Tos17 が挿入された付近でタンパク質に翻訳される領域を推定する。こうして推定された遺伝子をイネゲノムライブラリーから単離し、突然変異系統に再導入して圃場抵抗性の回復を調査する。
5. 本方法を用いて「日本晴」の白葉枯病圃場抵抗性が失われた突然変異系統をこれまでに5種類選抜し、Tos17 の挿入領域を決定して推定される原因遺伝子を同定している(表1)。この内XC20の遺伝子を再導入した突然変異系統で白葉枯病抵抗性の回復を既に確認し、他の遺伝子についても順次調査中である。

[成果の活用面・留意点]
1. 本方法によって圃場抵抗性を構成する遺伝子が同定され、菌のレースに依らない抵抗性のメカニズムが明らかになることが期待される。
2. 単離した白葉枯病圃場抵抗性構成遺伝子はイネの耐病性遺伝子として耐病性品種開発への利用が期待できる。
3. 本方法は白葉枯病以外の圃場抵抗性構成遺伝子の単離にも利用可能である。

[具体的データ]
図1 突然変異系統を利用した白葉枯病圃場抵抗性関連遺伝子の単離法
表1 白葉枯病圃場抵抗性に関わるTos17の挿入領域の解析

[その他]
研究課題名:遺伝子組換え技術の高度化と複合病害抵抗性等有用組換え稲の開発
課題ID:221-h
予算区分:基盤、委託プロ(イネゲノム)
研究期間:2005〜2007年度
研究担当者:青木秀之、宮尾安藝雄(生物研)、廣近洋彦(生物研)、矢頭治
発表論文等: 1)青木秀之、矢頭治 「イネ白葉枯病圃場抵抗性遺伝子及びその利用」 特許出願2008-204036.
2)青木秀之ら (2006) 北陸作物学会報、41: 24-28.

目次へ戻る