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食の広場

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第5話 『家族で焼き肉』

 梅雨も開けて、毎日暑い日が続いています。今日はお母さんのボーナス日なので、 家族で焼き肉屋に来ています。

父ひろし「こら、たれが付いた肉をここに置いたらタン塩が焼けないじゃないか。」

優子「まあそんな固いこといわないで。あっ、そこの肉、もーらい。」

夢子「それ、ゆめのだったのにー。」

優子「子どものうちから牛さんを食べていると、あんたも牛になっちゃうわよ。」

ひろし「まあ、牛にはならんと思うが、最近、なんでもクローン牛の肉が出回っているって噂だろ。あれって大丈夫なのか。」

あおい「たしか農林水産大臣が焼き肉パーティーをやって、大丈夫ってアピールしていたやつでしょう。カイワレといい、ほうれん草といい、あの人たちも大変ね・・・」



優子「という話を昨日の夜にしていたんですけど、クローン牛の肉って大丈夫なんですか?」

先生「クローン牛というのは、おおざっぱにいえば一卵性双生児を人工受精で作り出していると思えばいいんだ。もちろん、こんなことを人間でやったらすごく問題があるし、動物でもやっていいのかどうかっていうことには議論があるところだけど、少なくとも科学的には、普通の方法で生まれた牛とクローン牛に特別な違いがあるわけはないんだよ。それは、双子とか人工授精で生まれた子どもが、そうじゃない子どもと別に違うところがないのと同じだね。」

勇太「ということは、特別に危険というものじゃあ全然ないってことですね。」

先生「その通り。どうせなら品質がいい牛を安く作った方が、農家の人もそれを食べる人も幸せになれると思うけど、クローン技術を使えば、黒毛和牛みたいな高級肉牛を普通の乳牛に生ませることもできるんだよ。」

ともよ「なんか牛さんには気の毒な気もしますけど、でも私たちにとっては役には立つ技術なんですね。」

先生「人間は、自分たちの生活を向上させるために、長い年月をかけていろいろな技術を開発してきたんだ。時としてそれは環境問題なんかを引き起こしてきたこともあるけど、一方でその失敗に学んで、そしてそれをなんとかする方法も見つけ出してきたんだよ。」

陽一「それって具体的にはどんなものがあるんですか。」

先生「例えば、食べ物の生産なんてのはその一つの例といえるね。米などの穀物の生産量は100年前とくらべるとはるかに増えているんだけど、その裏には、おいしくてたくさん取れる品種や、人間に害がなくて効き目の高い農薬の開発の努力があるんだよ。最近、話題になっている遺伝子組換え植物というのも、できるだけ農薬を使わずに、砂漠など厳しい環境の下で育つ農作物を作ろうという発想から開発されてきたんだ。」

優子「それで、今日本には遺伝子を組み換えたものから作った食べ物が実際に売っているんですか。」

先生「日本に外国から入ってきている大豆の約3分の1は、雑草を枯らす除草剤をかけても枯れなくなるようにする遺伝子が入っているものなんだよ。でも、大豆を見ただけじゃあこれはわからないから、スーパーマーケットで売っている豆腐や味噌の中には、遺伝子組換え大豆で作ったものもあるかもしれないね。」

ともよ「そうなんですか。うちのお父さんも遺伝子組換えで作った食べ物はなんだか気持ちが悪いって言ってましたけど、実は知らないうちに食べていたわけですね。」

先生「たしかに組換え食品というのはそれまで人間が食べたことがなかったものだから、『もしかすると何か危険なんじゃないかな』って思うのも当然のことだと思うよ。だけど普通に食べているじゃがいもだって芽のところにはソラニンっていう毒が入っているし、梅の種にも青酸化合物が入っているから、こういう食べ物が『絶対に安全か?』と言われると、『それは違う』ということになるんだ。ただ長い間の経験から、危なそうな所がわかっているから、こういうものでも安全に食べることができるわけだ。トマトにも『トマチン』という毒が入っていることがわかっているんだけど、君たちが普通にトマトを食べて病気になったりはしないだろう。外国では柔らかくなりにくい遺伝子組換えトマトというのが作られているんだけど、これに入っているトマチンの量は普通のトマトと同じぐらいしかないことがわかっているから、これが原因で病気になるとは考えにくい。こういうわけで、遺伝子組換え食品が『絶対に安全だ』ということは言えないとしても、それまである食品と成分に違いが見つからない以上は、少なくとも食べ物としての安全性に大きな差があるとは考えにくいんだ。こういう発想から遺伝子組換え食品は、栄養成分やこれまでにわかっている毒成分などの量が、普通のものと差がないことをちゃんと調べているし、食べたときにアレルギーを起こしたりしないかも確かめられているんだよ。」

ともよ「それを聞いて少し安心しましたわ。」

先生「ただ、いくら科学的には何の問題もないとしても、あるものを『安全だ』というには、その社会で生きている人の多くが『大丈夫』って感じることが前提なんだ。あと、『やっぱりイヤ』という人の意見は尊重すべきだから、材料はちゃんと分かるようになっていた方がいいんだろうね。」

ともよ「たしかに、そうなったらいいですわね。」

--博士からのコメント--

 人間が食べ物を栽培することを考え出した後、より安定して大量の収穫を得るために種々の工夫がなされてきました。例えば、農薬を使って害虫を防除することもその一つです。しかし、レーチェル・カーソンが『沈黙の春』で描いたように、行き過ぎた農薬の利用は生態系に悪影響を与えることが判明しました。これを受けて、環境に与える影響がより少ない農業技術の開発が求められてきました。その一つの解決策として、遺伝子組換え技術が利用されるようになってきたわけです。
 遺伝子の組換えそのものは、自然界でも交雑という形でごく普通に生じているものですし、これまで行われてきた優良品種の掛け合わせ交配も同じ原理に基づくものです。ただし、人為的に作った作物が実際に人の口に入る場合は、栽培の際に周囲の環境に悪影響を与えないのみならず、普通の農作物と違った悪いものを作っていないことを確認しておく必要があります。飼料・食品として利用される組換え農作物については、アレルギーを誘発しないことや栄養成分等が通常作物と異ならないことなどが確認された後に、はじめて商品化がなされています。ただし、科学的な安全性がいくら確実に保証されているとしても、それを表示してほしいという人がいるならば、そういう人に対する配慮はやはり必要でしょう。

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