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食の広場

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第12話 『パン酵母って何ですか?』


優子「なんかいい匂いがしてるね。」

勇太「パンを焼いている匂いみたい。ちょっとのぞいてみようか。」

先生「やあ、いらっしゃい。今日も遊びに来たのかい?」

ともよ「はい。少し見せていただいてもよろしいですか?」

先生「どうぞどうぞ。この窯でパンを焼いているんだよ。」



陽一「なんか小さいんですね。お店もこんな窯で焼いているんですか。」

先生「パン屋さんはみんなに食べてもらわなければいけないんで、もっと大きいのを使っていると思うけど、ここはいろんな種類のものをたくさん作ってみるのが仕事だから、これくらいのものがいいんだよ。」

勇太「ふーん、そうなんですか。でもどうしてそんなにいろんな種類のものを作る必要があるんですか。」

先生「君たちがどんなパンを食べているか考えてみてもらったらわかると思うけど、例えばフランスパンのように固いものとか、ふわふわしたものとか、いろいろあるだろ。それと同じで、最近はいろいろな小麦やパン酵母を使ってもっとおいしく香りのいいパンを作る研究なんかもやっているだ。」

優子「あのー、パン酵母って何ですか?」

先生「パンを膨らませるときに、酵母菌(イースト)というのを使うんだよ。普通、君達の家でパンを作るときにはドライイーストといって、乾燥させているのをつかうんだ。」

陽一「僕、やったことがあります。粉に水と塩を入れて、それに茶色い粉を入れて置いておくと、だんだんふくらんでくるんですよね。」

先生「そうそう。でもどうしてふくらむのか知っているかい。」

優子「いいえ。どうしてなんですか。」

先生「乾燥させたイーストは水を吸うと生き返って、小麦粉の栄養を食べてどんどん増えるんだ。その時に二酸化炭素とか、味や香りのもとになるものを出すんだよ。」

ともよ「二酸化炭素って理科の時間に習いました。そういえば母がケーキを作るときに、スポンジをふくらませるために白い粉を入れていたのですが、これもイースト菌なのでしょうか?」

先生「それは多分、ベーキングパウダーだよ。これの主成分は重曹で、熱をかけると分解してやっぱり二酸化炭素を出すんだ。」

陽一「そういえば昨日見た、イギリスの姉妹校のホームページにアイリッシュソーダブレッドっていうものを作ったって書いてたけど、これにもベーキングパウダーが入っていたかも。」

先生「これはアイルランドの田舎地方で作られているもので、イーストで発酵させないことと、バターミルクが入っているという特徴があるんだよ。」

優子「なるほどー。でもどっちも二酸化炭素のガスでふくらむわけですね。」

先生「でも一つだけ大きい違いがあるんだ。わかるかい。」

勇太「なんだろう...。」

先生「イーストは生き物だから、冷凍庫なんかで凍らせると、だんだん死んじゃうんだ。だからパンもあまりふくらまなくなる。」

優子「でも、それは使うすぐ前に粉と混ぜればいいんでしょう。どうしてそれが問題なの。」

先生「例えば君たちがパン屋さんを始めたとしようか。ある日はあまりお客さんが来なくてパンがたくさん売れ残ったりすると困るし、だからといって次の日はあまり準備をしてなかったら、途中で売り物が足りなくなったりして困るかもしれないよね。」

ともよ「そうですね。」

先生「じゃあ、粉とイーストを混ぜたところで冷凍しておいて、欲しいときにそれを出してきて使えるようになったとしたら。」

陽一「それは便利だけど、イーストは冷凍すると死んじゃうんでしょう。」

先生「だから、どういう仕組でそんなことが起こるのか研究して、一度凍らせてもちゃんと使えるイーストを見つけることができたんだよ。これがその新しい酵母を使って作ったパンだけど、普通のものと同じぐらいよくふくらんでいるだろう。」

優子「すごーい。でもそれって本当に使われているんですか。」

先生「売り物の全部が全部ってわけでもないけど、かなり実際に使われるようになってきているんだ。例えばコンビニエンスストアで一日3回、焼きたてパンを配達しているところがあるけど、これなんかもそうなんだね。」

優子「私も塾の帰りによく買ってるけど、こんな身近なところにも使われてたんだ。」

先生「そうだね。ところで、もうそろそろ君たちが覗いていたパンが焼き上がるけど食べていく?」

勇太「ありがとうございまーす」

--博士からのコメント--

 さっき、見学に来てくれたお嬢さんたちにもお話ししましたが、日本では15年ほど前から冷凍パン生地が利用されるようになってきました。しかし実用化するうえで一番問題だったのは、冷凍によって発酵力が弱くなり、ふんわりと焼き上げることができないことでした。それを解決したのが冷凍に強いパン酵母です。
 パン酵母の中には「トレハロース」という糖類が入っています。これはたくさん入っているからといって味が甘くなるというものでもありませんが、これを多く含むほど、菌を凍結して解凍したときによくパン生地をふくらませることがわかりました。
 現在では、冷凍生地に適した酵母が流通し、解凍した後も普通のパンと同じような品質のパンを作ることができるようになりました。

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