飼料作物病害図鑑

暖地型イネ科植物 ミイラ穂病 リスク評価スコア2.3 (2,2,3)

病徴(スズメノヒエ、穂) 病徴(スズメノヒエ、葉) 病原菌(スズメノヒエ、分生子)
病徴(ジャイアントスターグラス、穂) 病徴(パラグラス、穂) 病徴(パラグラス、葉)
病徴(パンゴラグラス、葉) 病徴(パミューダグラス、穂) 病徴(イトアゼガヤ、穂) 病原菌(カゼクサ、分生子)
病徴(シマヒゲシバ、穂) 病徴(ヒメヒゲシバ、穂) 病徴(イヌビエ、穂) 病徴(アキメヒシバ、茎) 病徴(オキナワミチシバ、穂)
病徴(チカラシバ、穂) 病原菌(チカラシバ、培養菌叢) 病徴(チガヤ、穂)

病徴:暖地型イネ科植物で発生する穂枯性の糸状菌病。出穂後、穂が灰色から黒色の菌叢に覆われ、枝梗が互いに接着された状態となり、穂全体がかびる。葉には白色の菌叢が葉脈に沿って条状に現れる。日本産として記録に現れたのは1904年と古く(Hennings, P. Hedwigia 43:150)、これまでスズメガヤ連、ギョウギシバ連、キビ連、ヒメアブラススキ連の20種の暖地型イネ科植物で報告されている(月星ら 1997c, 1999a, 1999b, 2000b)。発生は主に沖縄県石垣島だが、スズメノヒエ(古賀ら 1993b:本発表はスズメノヒエと後に確認された)、チガヤ、カゼクサ、チカラシバは栃木県でも発病する(古賀ら 1999a)。

病原菌:Ephelis japonica Hennings [=Balansia spp.]、不完全菌
ミイラ穂は病原菌の子座で、表面に針状の分生子を多数形成する。条件が揃えば子座に有性世代(Balansia)を形成するが、わが国では確認されていない。病原菌糸は感染植物の生長点表面に絡みつくように感染するが(Christensenら 2000)、植物の生育に大きな影響を及ぼすことはないため、植物の葉はそのまま展開し、葉表面には白いすじ状の菌叢が形成されることがある。このように病原菌はエピファイト(表生菌)として植物全体に感染する(月星ら 2008e)。本菌は当初は分子系統からBalansiaとは異なるとされたが(田中ら 1999)、その後B. andropogonis(アジア系)とB. discoidea(アメリカ系)に分けられることが明らかになり、前者は沖縄中心に、後者は関東にも分布することから、生息地域が異なると推定されている(Tanaka et al. 2001)。


生理・生態:感染植物は耐虫性を持つようになり、感染したパラグラスおよびジャイアントスターグラスの葉はマダラバッタおよびアワヨトウに対して(高橋ら 1998, 1999)、また感染スズメノヒエの葉および培養濾液はコバネイナゴに対する摂食忌避作用を持つ(上垣ら 2000)。また、感染スズメノヒエは冬の低温に対する耐性も高まる(月星ら 2007d)。

防除法:人工接種も成功しておらず、病害としての生態は不明であるため防除法はないが、川沿いなど土壌水分の多い場所で発生することが多いため、圃場の排水改善が効果的である可能性がある。

総論:月星ら (2008e, 2013a, 2019), Koga(1999)


畜産研究部門(那須研究拠点)所蔵標本 なし

(月星隆雄,畜産研究部門,畜産飼料作研究領域,2021)


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