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「集落営農」の効果と推進上の留意点


東北農業試験場・農村計画部・経営管理研
[部会名] 地域水田農業
[分科会名]
[分類]  (4)

[成果の内容]
  1. 技術・情報の内容及び特徴
    【背景】今日、地域農業の振興をはかるため、集落ぐるみ営農(「集落営農」)が推進 されようとしている。だが、組織は作ったものの停滞・解散の危機に直面する場合が少なくない。 したがって「集落営農」に取り組むに当たっては、それにより期待される効果と留意点を 十分に把握しておくとともに、問題を生じさせないための事前の対策が必要である。
    【内容及び特徴】
    1. 機械・施設の共同利用や転作地のブロックローテーション等への取り組みを 中心とする「集落営農」にはおよそ4つの効果が期待できる (表1)。 (1)共同装備による農機具償却費の削減および所得増大効果、(2)共同作業による省力効果、 (3)小規模・高齢農家層の農業継続を可能にさせる下支え効果、(4)転作田のブロックローテーション 等による転作物の生産向上と輪換田の増収効果等である。このように「集落営農」は、 農地の集中・調整や一元的営農によるコストダウンや土地利用高度化等に有効性が認められる。
    2. しかしながら「集落営農」の担い手となるオペレーターの賃金は、作業受託などによる 期待収益に比べて極めて低く設定されるため、担い手の農業への意欲を削ぎ、中核的な 担い手の形成を抑制しかねない。これは集落構成員の平等性の建前を重視して「集落営農」の 効果が配分されてしまうからである。
    3. この点を克服していくには、「集落営農」の全構成員の発言権や決定権を保証して平等性の 原則を維持しつつ、「集落営農」の効果が一元的営農を源泉として初めて期待できることを 確認して、将来の担い手の確保・育成につながる条件の分配基準を、たとえば(1)「集落営農」 による効果があった場合その何%を労働時間あるいは組織への貢献度に応じて配分するという形、 あるいはそれが出来ない場合でも(2)記帳、研修等を含めた経営管理労働への評価・報酬の基準を 早い機会に決めておくことである。表2は「集落営農」の効果の50%を出役時間に応じて配分した 場合の試算で、狭い地域労働市場の条件下では、これだけでも次の営農展開の貴重な 足がかりとなるものと期待される。 (表2)
  2. 技術・情報の適用効果
    「集落営農」の中で中核的な担い手を育成していく足がかりが得られる。
  3. 適用の範囲
    東北地域を典型とする地域労働市場の発達が弱く、不安定な就業形態が多い水稲単作的な地帯。
  4. 普及指導上の留意点
    こうした改善をしたとしても、ただちに農業の担い手が育成可能なわけではない。 上述のような地帯における担い手育成においては、少なくともさらに(1)複合化の推進、 (2)担い手の認知の推進、(3)土地利用調整の推進等の条件整備が必要である。


[その他の特記事項]
研究課題名:寒冷地水田営農におけるコストダウン限界の解明
予算区分 :総合
研究期間 :平成2〜3年
発表論文等:宮武恭一ら「集落農業の展開類型に関する比較分析」
        (東北農業経済学会報告要旨 P.68、1990年8月)
      関野幸二ら「集落営農における担い手問題」
        (日本農業経営学会報告要旨 P.69、1990年10月)
      梅本 雅 「集落営農の担い手像」
        (東北農業経済研究10-1,2 P.13-28、1991年3月)
      佐藤 了 「『集落営農』の効果と推進上の留意点」
        (東北農業試験場たより、No.57、P.2、1991年3月)