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耐湿性研究に有用な根系の深さの異なる小麦実験系統群の作出


[要約]
  バスケット法を用いて幼植物の種子根の伸長角度を測定することにより、浅根性と深根性の実験系統を作出した。これらの実験系統は小麦の耐湿性研究において地下水位と生育や収量との関係を明らかにするための実験などに用いることができる。
[キーワード]
  コムギ、根系、地下水位、湿害、耐湿性、バスケット法
[担当]東北農研・畑地利用部・作付体系研究室
[連絡先]電話024-593-5151、電子メールoyanagi@affrc.go.jp
[区分]東北農業・畑作物、作物・冬作物
[分類]科学・参考

[背景・ねらい]
  根系分布は小麦の環境ストレス耐性と密接な関係にあり、根系が深いと耐乾性が強く、浅いと耐湿性が強くなると考えられるが、根系分布と環境ストレス耐性との定量的な関係は明らかにされていない。一方、小麦の根系には品種間差異が認められ、生育後期の根系の深さは、幼植物の種子根の伸長角度との関係が深いことが明らかになっている。そこで、実際に根系の深さが異なる実験系統群を作出し、地下水位の高い過湿な水田圃場で栽培して収量を比較することにより、耐湿性研究への利用の可能性を調べる。
[成果の内容・特徴]
 
1. Rosella(オーストラリアの品種:深根性)と東山30号(後のキヌヒメ:深根性)の雑種第一代に関東119号(後のあやひかり:浅根性)を交配して得た雑種第一代にトウモロコシを交雑し、得られた小麦半数体にコルヒチン処理による染色体倍加を行って遺伝的に固定した倍加半数体を得た。これらの129系統についてバスケット法(図1)により種子根伸長角度を測定して伸長角度の小さい9系統(浅根性系統とする)と大きい9系統(深根性系統とする)を選抜した。
2. 浅根性の9系統と深根性の9系統を水田圃場に栽培して、登熟期に改良モノリス法で土壌を採取し、根を洗い出して根長密度を調べると、深さ0から5 cm の浅い層では浅根性系統の根長密度が高く、深さ5から30 cm の層では逆に深根性系統の根長密度が高い(図2)。このことは、根系の深さの異なる小麦系統の作出に、幼植物の種子根の伸長角度を調べる方法が有効であることを示している。
3. 浅根性系統群と深根性系統群を水田圃場に栽培して生育の後半(4月10日から5月30日)に地下水位を上昇させると、両系統群共に子実重は地下水位と強い負の相関関係を示す。しかし、地下水位が同じ場所で比較すると浅根性系統は深根性系統に比べて子実重が大きい傾向にある(図3)。
[成果の活用面・留意点]
 
1. 作出した実験系統は小麦の耐湿性研究に活用でき、根系分布を考慮した品種の育成や栽培技術の開発のための試験に用いることができる。
2. 耐湿性品種の開発は、浅根化だけでは不十分と考えられる。
[具体的データ]
 
[その他]
研究課題名: 根系改良による小麦の耐湿性の向上、南東北における小麦品種の品質・収量の変動要因の解明
課題ID: 05-03-01-01-07-02、05-03-01-02-11-03
予算区分: 21世紀1系、ブラニチ1系(農研機構重点研究強化経費)
研究期間: 2001〜2005年度
研究担当者: 小柳敦史・乙部 (桐渕) 千雅子・柳澤貴司・三浦重典・小林浩幸・村中聡
発表論文等: 小柳ら (2001) 日作紀 70:408-417.