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駆虫薬を投与した牛の糞は糞虫を誘引するとともに幼虫生存率を低下させる


[要約]
  牛の寄生虫駆除薬に含まれるイベルメクチンは糞の中に排泄される。糞虫(食糞性コガネムシ類)の多くの種は、イベルメクチン濃度の高い牛糞に誘引される。イベルメクチン濃度が高い牛糞は、2種の糞虫(オオフタホシマグソコガネとツノコガネ)の産卵には影響しないが、幼虫の生存率を低下させる。
[キーワード]
  寄生虫駆除薬、イベルメクチン、糞虫、誘引、生存率、ウシ
[担当]東北農研・畜産草地部・家畜環境研究室
[連絡先]電話019-643-3544、電子メールnobuyo@affrc.go.jp
[区分]東北農業・畜産、共通基盤・病害虫(虫害)、畜産草地
[分類]科学・参考

[背景・ねらい]
  近年、ポアオン法で投与できる寄生虫駆除薬が広く利用されつつある。イベルメクチン等の製剤有効成分は糞の中に排泄されるため、糞を餌とする昆虫の生育が抑制され、糞分解が妨げられる可能性が指摘されている。しかし、国内では食糞性昆虫に対する影響はほとんど調べられていない。そこで駆虫薬を投与した牛の糞の糞虫に対する誘引性と、幼虫の生存率に及ぼす影響を明らかにする。
[成果の内容・特徴]
 
1. 牛に投与した駆虫薬に含まれるイベルメクチンは、翌日には糞中に排泄され始め、最も濃度が高くなるのは、投与後3日目の場合が多い。その後、濃度は次第に低くなる(図1)。
2. 駆虫薬を投与した牛から採取した糞を誘引源とした糞トラップで5属16種の糞虫を採集した。誘引性は種によって異なるが、カドマルエンマコガネ以外の7種は、駆虫薬投与後3日目、または1日目の糞に多く集まる()。
3. 幼虫のための餌として地下に糞を埋め込む糞虫は、糞分解に重要な役割を果たしていると考えられるが、それらの種のうち、オオフタホシマグソコガネとツノコガネは、駆虫薬を投与した牛の糞で産卵させても、産卵数には影響しない。しかし、駆虫薬投与後1、3日目の糞を与えてオオフタホシマグソコガネを飼育すると、幼虫はすべて死亡する(図2)。ツノコガネでも1、3、7日目の糞を与えた幼虫の生存率は、対照区に比べ、有意に低くなる(図3)。
[成果の活用面・留意点]
 
1. イベルメクチン濃度の高い糞による成虫への誘引効果、及び幼虫の生存率に与える影響は、種によって異なる。
2. 駆虫薬投与を適切に行うには、駆虫薬の経済的効果の他、草地及び周辺環境への影響等を考慮する必要があるが、本成果はその参考となる。
3. 最近の環境影響評価基準ガイダンス(案)では、駆虫薬の承認申請に糞虫の試験も必要になるケースが示され、国際的な標準試験法の開発が進められるなど、駆虫薬の環境負荷に対する評価は厳しくなりつつある。本成果はそれらの参考となる。
[具体的データ]
 
[その他]
研究課題名: 牛糞分解性動物をモニタリング指標とした牛用駆虫薬が草地生態系に及ぼす影響の解明
課題ID: 05-05-08-01-05-03
予算区分: 公害防止系
研究期間: 2002〜2003年度
研究担当者: 吉田信代、山下伸夫、岩佐光啓(帯広畜産大)、渡邊彰