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「やや低アミロース」形質を効率的に選抜できる共優性マーカー
[要約]
コムギの「やや低アミロース」形質を支配するBゲノム由来waxy 遺伝子(Wx-B1 )変異は、同遺伝子を含む約67kbpの欠失が原因と考えられる。同DNA情報を利用して作製された共優性マーカーは、「やや低アミロース」形質の効率的な選抜に活用できる。
[キーワード]
コムギ、やや低アミロース、Wx-B1 遺伝子、DNAマーカー
[担当]
東北農研・めん用小麦研究サブチーム
[代表連絡先]
電話019-643-3514
[区分]
東北農業・作物(冬作物)、作物
[分類]
研究・普及
[背景・ねらい]
コムギの胚乳デンプン中のアミロース含量は、製麺・製パン適性に影響を与え、その含量が若干低い「やや低アミロース」になると「うどん」の粘弾性(こし)が上がり、またパンに「しっとり感」を付与する効果があることが報告されている。このやや低アミロース形質は、コムギの3種のwaxy 遺伝子(Wx-A1 、B1 、D1 )中のB1 の欠失変異(通称B欠)によって代表され、同変異の導入・選抜がDNAマーカーを用いて行われている。しかし、B欠変異の原因は、ゲノム上の同遺伝子を含む大きな欠失に起因するため現在までに優性マーカーが開発されたのみであり、DNAマーカー選抜のさらなる効率化の点から共優性マーカーの開発が国内外から望まれていた。そこで、本研究では、Wx-B1 の欠失領域を同定すると同時に、その情報から共優性マーカーの開発を行う。
[成果の内容・特徴]
- オオムギおよびヒトツブコムギのWx 遺伝子を含むBACクローンの塩基配列比較から,同遺伝子5’上流の塩基配列の相同性は低く、3’下流6.6〜7.0 kbp領域に麦類で相同性が高い領域が存在すると推察される。実際、普通系コムギのゲノムDNAの同領域は高い類似性を示す。
- Wx-B1 遺伝子3’下流約6.5 kbpの配列を決定し、野生型Wx-B1 遺伝子の下流1.8 kbpに全長約3.6 kbpの機能未知遺伝子が存在することが判明(図1)。
- Wx-B1 遺伝子3’下流の塩基配列情報より作製したプライマーを用いたゲノムウォーキングにより、Wx-B1 遺伝子下流域の欠失点は、上記機能未知遺伝子の一部を含む3872 bp下流に、一方上流の欠失点は、ヒトツブコムギのWx 遺伝子の5’上流約60kbpの位置に位置すると推定される。従って、B欠系統においてはWx-B1 遺伝子(約2.8 kbp)を含む約67 kbpの欠失が変異の原因と考えられる(図1)。
- 欠失点上流下流配列とWx-B1 遺伝子配列を用いて作製された共優性マーカーは、Wx-B1 遺伝子欠失変異を持つヘテロ個体も選抜できる(表1、図2)。
- 開発されたマーカーを用いることにより、日本国内および北米、オーストラリア等のコムギ育種事業で用いられているWx-B1 欠失変異体の変異は同じであることが判明し、本マーカーを選抜に用いることが可能である。
[成果の活用面・留意点]
- 開発されたマーカーは、既存のWx-A1、D1 変異体同定用のマーカーと同じPCR条件で利用できる
(http://www.naro.affrc.go.jp/top/seika/2001/tohoku/tohoku01009.html)。
- ヘテロ個体の選抜ができることから、本マーカーを連続戻し交配時に用いることで、より効率的な選抜が可能になる。
- 本マーカーはK107 由来Wx-B1 変異と異なるWx-B1 変異には利用できない。
[具体的データ]



[その他]
- 研究課題名
- めん用小麦品種の育成と品質安定化技術の開発
- 課題ID
- 311-b
- 予算区分
- 基盤研究費
- 研究期間
- 2005〜2007年度
- 研究担当者
- 中村俊樹、齊藤美香(日本製粉)、石川吾郎
- 発表論文等
- 齊藤ら(2006)育種学研究 8:9-16