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土壌のリン脂質脂肪酸組成は有機栽培と慣行栽培で差が認められない

[要約]

ミニトマト栽培農家圃場において、土壌微生物性の指標であるリン脂質脂肪酸の含量、組成に基づく多様性指数(シンプソン指数)および組成は、有機栽培と堆肥等の有機物を施用している慣行栽培との間で差は認められない。

[キーワード]

有機農業、リン脂質脂肪酸、土壌微生物

[担当]

東北農研・特命チーム員(土壌生物機能研究チーム)

[代表連絡先]

電話024-593-5151

[区分]

共通基盤・土壌肥料、東北農業・基盤技術(土壌肥料)

[分類]

研究・参考

[背景・ねらい]

有機物施用により土壌の生物性が改善することが一般的に認められている。一方、有機栽培を実践することにより土壌の生物性が改善されると言われているが、その科学的根拠は明確ではない。そこで、ミニトマト栽培において有機栽培実践農家圃場と近隣の堆肥等の有機物を施用している慣行栽培農家圃場の作土の土壌微生物群集構造をリン脂質脂肪酸により解析し、有機農業と慣行栽培でリン脂質脂肪酸組成に差が認められるのか検討する。

[成果の内容・特徴]

  1. 土壌の微生物バイオマスと相関が認められている土壌中のリン脂質脂肪酸含量は、調査した3年間とも有機栽培と堆肥等の有機物を施用している慣行栽培農家圃場間で顕著な差が認められない(図1)。
  2. リン脂質脂肪酸組成に基づいて求めた多様性指数(シンプソン指数(1/D))は、有機栽培と堆肥等の有機物を施用している慣行栽培で顕著な差が認められない(図2)。
  3. リン脂質脂肪酸組成(含量)に基づいて行ったクラスター解析では、有機栽培と堆肥等の有機物を施用している慣行栽培で明確な分離がなくリン脂質脂肪酸組成に差は認められない(図3)。

[成果の活用面・留意点]

  1. 本調査で対象とした慣行栽培農家は、化学肥料または農薬を散布し、かつ堆肥等の有機物も施用している。さらに土壌診断結果に基づき施肥をしている技術レベルの高い農家も調査に含まれている。また有機栽培農家は全てJAS有機認証農家である(表1)。
  2. 本調査で対象とした栽培農家の土壌は灰色低地土系の沖積土であり、全て雨よけハウスである。リン脂質脂肪酸を解析した土壌は、ミニトマト栽培期間中(6月および8月)に採取した。
  3. 土壌微生物群集構造を攪乱するような薬剤及び太陽熱による土壌消毒等の栽培管理を調査年次前後には行っていない。
  4. リン脂質脂肪酸は細菌群集構造を主として解析している。
  5. 平成19年度成果情報(北海道農業・生産環境)「福島、山形県内有機および慣行ミニトマト栽培農家土壌の糸状菌群集構造」と2005年と2006年は同じ土壌サンプルを用いており、図表中の農家名は共通である。

[具体的データ]

表1 調査圃場の概要(2006年調査時)

図1 ミニトマト農家圃場のリン脂質脂肪酸含量図2 ミニトマト農家圃場のリン脂質脂肪酸組成の多様性指数(シンプソン指数)

図3 ミニトマト農家圃場のリン脂質脂肪酸組成に基づくクラスター解析(群平均法)

[その他]

研究課題名
土壌管理が野菜畑の土壌微生物群集構造に及ぼす影響の解明
課題ID
214-j
予算区分
交付金プロ(有機農業)
研究期間
2003〜2007年度
研究担当者
浦嶋泰文、岡田浩明(農環研)、長谷川浩、中嶋美幸、村上敏文