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八郎潟干拓地の代かき水田における流入水の増加に伴う水質汚濁物質の浄化
[要約]
八郎潟干拓地の水稲連作水田では、用水量を多めとする水管理により水田への流入負荷量を増大させることで水質汚濁物質の差引排出量が小さくなり、八郎湖の水質浄化に寄与できる。
[キーワード]
差引排出量、水田原単位、水質汚濁物質、用水量、水質浄化
[担当]
秋田県農業試験場・生産環境部・環境調和担当
[代表連絡先]
電話018-881-3330
[区分]
東北農業・生産環境(土壌肥料)
[分類]
研究成果情報
[背景・ねらい]
水田から生じる水質汚濁物質の原単位は、湖沼の水質保全対策を策定するうえで重要な数値である。水田の原単位として用いられる差引排出量は、排出負荷量(表面排出負荷量と浸透排出負荷量)から流入負荷量(用水負荷量と降水負荷量)を差し引いて算出されるため、水質汚濁物質濃度の高い水系では、水田への用水の取り込みが多いほど流入負荷量が増加し、差引排出量が小さくなる可能性がある。そこで、大潟農場における1994年以降の単位水田調査の水収支や水質汚濁物質収支を解析し、八郎湖の水質改善対策を示す。
[成果の内容・特徴]
- 水稲を3年以上連作している代かき水田(連作水田)では、流入水量と排出水量がほぼ一致している。流入水量の約4割を用水が占め、約6割が排水として排出される。各汚濁物質の差引排出量は、全窒素(T-N)と全リン(T-P)がマイナスで水質浄化型、化学的酸素要求量(COD)と懸濁物質(SS)はプラスで水質負荷型である。これに対し、復田3年以内の代かき水田(復田)の場合、連作水田と比べて用水量が約3倍となり、流入水量が顕著に増加するだけでなく、SSを除く各汚濁物質の差引排出量も大幅に増加し、全て水質負荷型となっている(表1)。
- 連作水田の場合、各汚濁物質の差引排出量は、水田への流入水量と負の相関が認められ、寄与率はSS<T-P<COD<T-Nの順に高い。これに対し、復田では差引排出量と流入水量に一定の関係が認められない(図1)。
- 連作水田では、排水量と各汚濁物質の排出負荷量との間には有意な相関が認められないことから、排水量の増加は排出負荷量の増加につながらない。一方、各汚濁物質の水田への流入負荷量は用水量と有意な相関関係にあるため、用水量の増大は流入負荷の取り込みを増加させる(表2)。
- 以上より、潅漑期間全体で見た場合、連作水田では用水量を多めとする水管理により干拓地内の水循環のスピードを速め、水田への流入負荷量を増大させた方が水質浄化の効果が高い。
[成果の活用面・留意点]
- 八郎潟干拓地水田のように、水質汚濁物質濃度の高い潅漑水を循環利用している水田における、潅漑期間全体の調査結果である。
- 復田3年以内の水田に対する水質汚濁物質の抑制対策としては、無代かき栽培が有効である(原田ら、東北農業研究成果情報、2003年)。また、移植前落水時の湛水深は60mm以下とし、浅水代かきを励行するなど、代かき濁水の防止対策は従来通りを基本とする。
[具体的データ]



( 秋田県農業試験場)
[その他]
- 研究課題名
- 「閉鎖水系水田地帯における畜産由来有機性資源を利用した環境調和型水稲作技術の実証と改良」、他
- 予算区分
- 指定試験、実用技術開発事業
- 研究期間
- 1994〜2011 年
- 研究担当者
- 伊藤千春、渋谷允、渋谷岳、原田久富美、太田健、土屋一成