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無代かき栽培における移植直前潅水によるメタンガスの抑制と水稲生育への影響

[要約]

水稲の無代かき栽培では、移植前の潅水を移植直前まで遅らせると移植後から中干しまでの酸化還元電位(Eh)が代かき栽培よりやや高くなり、メタンガスの発生量が減少する。潅水時期によらず、無代かき栽培の収量・品質は代かき栽培に劣らない。

[キーワード]

無代かき栽培、メタンガス、酸化還元電位、移植直前潅水、水稲

[担当]

秋田県農業試験場・生産環境部・環境調和担当

[代表連絡先]

電話018-881-3330

[区分]

東北農業・生産環境(土壌肥料)

[分類]

研究成果情報

[背景・ねらい]

水稲の無代かき移植栽培は、耕起・砕土を行うが代かきせずに田植えを行う栽培法で、移植精度や苗立ちを良好にするため、砕土・整地作業後の潅水を移植直前に行うのは避けた方が良いとされている。一方、水田からのメタンガスの発生には、土壌の酸化還元性や易分解性有機物含量が強く影響することが知られている。近年、秋田県では有機質資材を用いた水稲作への取り組み事例が増加していることから、秋田県の特別栽培農産物認証制度の施肥基準に準拠した水稲栽培において、無代かき栽培による土壌の還元性やメタンガス発生量の変化、水稲生育への影響を検討する。

[成果の内容・特徴]

  1. 無代かき区では、移植7日前に潅水した2010年の場合、土壌の酸化還元電位(Eh)とメタンガスフラックスに代かき区との明瞭な違いが認められないものの、移植直前に潅水した2011年と2012年は、Ehが移植後から中干し期まで代かき区より高く、メタンガスフラックスが調査期間を通じて低い傾向にある(図1)。
  2. 無代かき区のメタンガス発生量は、代かき区と比べ2010年は調査期間全体で6%程度の減少にとどまったが、移植直前潅水を行った2011年以降は中干し前・中干し後とも少なく、調査期間全体では2カ年とも33%少ない(表1)。
  3. 移植直前に潅水を行っても、無代かき区における水稲の生育・収量及び玄米品質は、代かき区と比べ遜色ない(表2)。

[成果の活用面・留意点]

  1. 無代かき区の湛水期間中(移植から中干しまで)の1日当たり減水深は、2010年が10mm、2011年が11mm、2012年が8mmであった。本技術は、このように透水性が極めて不良な土壌に適用可能である。
  2. 移植直前潅水を行うと、若干欠株が増えるものの、収量への影響は認められない。
  3. 無代かき区では、ロータリ耕起1回の後ドライブハローで2回耕起した。移植には無代かき移植用田植機を用い、田植機に付属した耕起爪で部分耕を行いながら代かき区より深めに移植した。

[具体的データ]

( 秋田県農業試験場)

[その他]

研究課題名
「閉鎖水系水田地帯における畜産由来有機性資源の循環利用に伴う環境負荷物質の動態解明と環境負荷低減技術の開発」、「閉鎖水系水田地帯における畜産由来有機性資源を利用した環境調和型水稲作技術の実証と改良」
予算区分
指定試験、実用技術開発事業
研究期間
2010〜2012 年
研究担当者
伊藤千春、渋谷允、林雅史(北秋田地域振興局)、渋谷岳