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積雪寒冷地域の水稲・大豆の田畑輪換における土壌肥沃度の実態と維持改善法
[要約]
積雪寒冷地域の田畑輪換において、牛ふん堆肥2〜3t/10aの連用により、大豆作頻度に関わらず地力増進基本指針の可給態窒素の目標下限値程度以上を維持できる。大豆作で石灰等を施用すれば、一部の土壌化学性はそれらを施用しない連年水田より改善される。
キーワード]
田畑輪換、水田土壌、可給態窒素、牛ふん堆肥、大豆作付頻度
[担当]
新世代水田輪作・高能率水田輪作
[代表連絡先]
電話0187-66-1221
[区分]
東北農業研究センター・水田作研究領域
[分類]
普及成果情報
[背景・ねらい]
水稲・大豆の田畑輪換により窒素肥沃度が低下することが全国的に明らかになってきたが、積雪寒冷地域での農家圃場の実態は詳細には明らかにされていない。また、窒素肥沃度を除く土壌化学性の実態も不明な点が多い。一方、提示されている窒素肥沃度低下への具体的対策技術は限られている。そこで、積雪寒冷地域である秋田県南部の農家圃場の土壌の実態を明らかにし、そこから土壌肥沃度の維持改善技術を探る。
[成果の内容・特徴]
- 積雪寒冷地域の灰色低地土水田において、作土の可給態窒素は水稲・大豆の田畑輪換により大豆作付頻度の増加に伴い減少するが、牛ふん堆肥の2〜3t/10aの連用により可給態窒素は大豆作付頻度に関わらず60mg/kg程度高く維持できる(図1)。
- 地力増進基本指針で示される水田土壌の可給態窒素の目標値(80〜200mg/kg)の下限値を維持するためには、残渣還元だけでは大豆作付頻度を6割程度までとする必要がある。しかし、牛ふん堆肥2〜3t/10aの連用により、大豆を連作しても下限値程度以上を維持できる。また、牛ふん堆肥の連用により、大豆と水稲の作付割合を1対1としても、慣行的管理の連年水田(堆肥無施用・大豆作付頻度0%)並みに可給態窒素を維持できる(図1)。
- 大豆作付頻度の増加に伴い、大豆作時の苦土石灰施用によるpHの上昇、交換性マグネシウム、交換性カルシウム、塩基飽和度の増加傾向が認められる(農家A、B、D)。また、熔リン施用による可給態リン酸の増加も認められる(農家D)。大豆作時に苦土石灰70〜100kg/10a、熔リン60kg/10a程度を施用することにより、これら一部の土壌化学性は、このような資材を施用しない慣行的管理の水田よりも改善される(表1、2)。
- 稲わら持出し圃場(農家D)では、大豆作時にカリウム含有資材を施用しないのに大豆作付頻度が高いほど交換性カリウムが多い(表1、2)。これは水稲作の割合に応じて稲わらに含まれるカリウムの持出し量が多くなることによるので、稲わらを持出す場合は、カリウムの持出しに見合う補給が必要である。
[成果の活用面・留意点]
- 普及対象:水稲・大豆の田畑輪換を実施する生産者
- 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:積雪寒冷地域の灰色低地土水田
- その他:慣行的有機物管理(残渣還元のみ)の連年水田の可給態窒素が、150mg/kg程度の灰色低地土における成果である。堆肥を連用した際の水稲の減肥については、各都道府県の施肥基準を参考にする。本成果のリーフレットを1,000部作成し、普及指導機関等に配布予定。また、今後の体系化のマニュアルにも導入予定である。
[具体的データ]



( 西田瑞彦)
[その他]
- 研究課題名
- 作業の高速化による高能率低投入水田輪作システムの確立
- 中課題番号
- 111b1
- 予算区分
- 交付金プロ(田畑輪換)、交付金
- 研究期間
- 2007〜2012 年度
- 研究担当者
- 西田瑞彦、吉田光二、関矢博幸、土屋一成、高橋智紀
- 発表論文等
- Nishida et al.(2013)Soil Sci. Plant Nutr.59;208-217