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土壌pH上昇による野菜可食部カドミウム濃度低減効果の品目間差異
[要約]
野菜7品目のポット栽培試験のデータを線形混合モデルにより解析すると、栽培土壌のカドミウム濃度低下と比べて土壌pH上昇による可食部カドミウム濃度低減効果の方が品目間差異は大きい。土壌pH上昇による低減効果はキャベツで比較的高く、ニンジンで低い。
[キーワード]
カドミウム、野菜、土壌pH、品目間差異
[担当]
食品安全信頼・カドミウムリスク低減
[代表連絡先]
電話019-643-3464
[区分]
東北農業研究センター・生産環境研究領域
[分類]
研究成果情報
[背景・ねらい]
野菜の可食部のカドミウム(Cd)濃度低減においては土壌pHの上昇や土壌中Cd濃度の低下が有効と考えられるが、これらに関する報告は少なく、対策技術は確立していない。野菜の可食部Cd濃度低減技術を開発するためには、各品目について土壌pHと土壌中Cd濃度が可食部Cd濃度に与える影響を把握することが必要である。そこで、各土壌において土壌pHを数段階にして得られるデータを解析可能な線形混合モデルを用いて野菜7品目(エダマメ、チンゲンサイ、レタス、ニンジン、ハクサイ、キャベツ、ブロッコリー)の可食部Cd濃度を推定し、各品目の土壌pH上昇と土壌中Cd濃度低下による低減効果を比較する。
[成果の内容・特徴]
- 土壌pHと土壌中Cd濃度に基づく野菜の可食部Cd濃度を以下の手順で推定する。
- 現地圃場から採取したCd濃度0.1〜4.0 mg kg-1の土壌9点(エダマメのみ11点)を土壌pHが2〜3段階となるよう調整したポット栽培試験に供試し(表1)、得られた野菜の可食部Cd濃度、0.1 mol L-1塩酸浸出による土壌中Cd濃度、土壌pHを線形混合モデル(式1)に当てはめる。
式1 log([可食部Cd濃度]i, j) = 切片 + a([0.1 mol L-1 塩酸浸出Cd濃度]i −0.21)
+ b ([栽培後の土壌pH]i, j −6.1) + [各土壌のランダム切片]i + [残差]i, j
注1)添え字のi、jは土壌iのj番目の値、a、bは0.1 mol L-1 塩酸浸出Cd濃度と土壌pHの係数
注2)ランダム要因に各供試土壌を指定し、各土壌の傾きが一定で切片が異なるランダム切片モデル。切片を日本の畑土壌の平均値(0.1 mol L-1 塩酸浸出Cd濃度0.21 mg kg-1、土壌pH 6.1)に設定した。
- 野菜各品目について式1の切片、a、bより土壌pHと土壌中Cd濃度による可食部Cd濃度推定値の等値線図を作成する(図1)。
- 全7品目の可食部Cd濃度は土壌pHの上昇と土壌中Cd濃度の低下に伴い低減する(図1)。土壌pH5.5から6.5に上昇時の可食部Cd濃度の低減率は、土壌中Cd濃度1.9から0.5 mg kg-1に低下時の低減率より品目間差異が大きく、その低減効果はキャベツで比較的高く、ニンジンで低い。
[成果の活用面・留意点]
- 土壌pH上昇または土壌中Cd濃度低下による可食部Cd濃度の低減効果についての品目間差異に関する情報は、アルカリ資材施用やファイトレメディエーションなど野菜のCd濃度低減対策の参考として活用できる。
- 土壌pHと土壌中Cd濃度の条件が一定の場合、可食部Cd濃度は品目によって異なるため、品目転換対策の参考となる。
[具体的データ]


( 戸上和樹)
[その他]
- 研究課題名
- 農産物の生産段階におけるカドミウムのリスク低減技術の開発
- 中課題番号
- 180b0
- 予算区分
- 実用技術、交付金
- 研究期間
- 2007〜2012 年度
- 研究担当者
- 戸上和樹、吉住佳与、工藤一晃、青木和彦、三浦憲蔵
- 発表論文等
- 戸上ら(2011) 日本土壌肥料学雑誌、82(3):191-199