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牛肉中放射性物質のと畜前(生体)推定法
[要約]
と畜前の牛の生体をスペクトルサーベイメータで測定した放射線計数率と筋肉の精密検査による放射性セシウム濃度との相関が高かったことから、と畜前の生体において筋肉中の放射性セシウム濃度を推定することができる。
[キーワード]
と畜前、牛生体、放射性セシウム、放射線計数率、スペクトルサーベイメータ
[担当]
宮城県畜産試験場・酪農肉牛部
[代表連絡先]
電話0229-72-3101
[区分]
東北農業・畜産
[分類]
普及成果情報
[背景・ねらい]
東京電力福島第一原子力発電所での事故により、牧草や事故後に収集された稲ワラから暫定許容値を超える放射性セシウムが検出され、牛肉の価格が下落し、畜産経営者は大きな被害を被っており、一刻も早い安全で安心できる牛肉の生産、流通、消費を実現する必要がある。食肉市場等においては、全頭放射性物質検査が実施されているが、と畜前に牛の生体から放射性セシウムの濃度を推定することができれば、適切な期間の飼養管理を徹底することで、放射性セシウムが基準値以下の牛肉生産が可能となる。
[成果の内容・特徴]
- 仙台市中央卸売市場食肉市場(以下「食肉市場」という。)の繋留所において、牛の生体(頸部)をスペクトルサーベイメータで測定した放射線計数率(cps)と、頸部筋肉のゲルマニウム半導体検出器による精密検査の放射性セシウム濃度(Bq/kg)との相関が高く、筋肉中放射性セシウムのと畜前(生体)推定が可能である(図1)。
- 県内の家畜市場等,家畜集出荷施設(3ヶ所)において同様に測定したところ、地域によってはバックグラウンド放射線の影響により、スペクトルサーベイメータの放射線計数率の上昇がみられたが、筋肉の精密検査による放射性セシウム濃度との相関が同様に高かったため、県内の家畜集出荷施設においても筋肉中放射性セシウム濃度のと畜前(生体)推定が可能である(図2)。
- これらの結果から、スペクトルサーベイメータの放射線計数率と、筋肉の精密検査による放射性セシウム濃度との回帰直線を引くことにより、筋肉の放射性セシウム濃度の推定値を算出することができる。これらの推定値を活用することにより、食肉市場や各地域の家畜集出荷施設におけるスペクトルサーベイメータの放射線計数率の基準を設定することにより基準値を超えない牛の出荷が可能である。なお,食肉市場における運用当初の放射線計数率の基準値は75cps であり,現在は60cps であるが,バックグラウンド放射線の影響が日々変化するため,それらを考慮し基準を設定している。
- 2012 年3月から12 月20 日までの測定頭数は3,879 頭で、生体放射線測定で合格した牛は食肉市場へ出荷、筋肉の放射性物質検査が実施され、これまで全ての牛が放射性セシウム50Bq/kg 以下となっている。
[成果の活用面・留意点]
- 普及対象:肉用牛出荷団体,行政等
- 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:放射性物質による肉牛の出荷制限を受けた地域等
- その他
- 調査機器については、BNC 社製スペクトルサーベイメータSAM940-3G(検出器直径が3インチ)を使用し、検出器の周囲に鉛遮蔽体(厚さ1cm 程度、自作)を装着して、1頭当たり30 秒間、牛生体頸部に密着して測定を実施する(写真1、2)。
- 調査機器、鉛遮蔽体等が異なる場合は、回帰直線が変わるので、回帰直線を求めるためデータの収集が必要となる。
- 測定場所については、バックグラウンド放射線の影響の低い場所(今回の調査機器の場合150cps 程度)で、できる限り同一の場所で測定すること。
[具体的データ]



(宮城県畜産試験場)
[その他]
- 研究課題名
- 予算区分
- 県単
- 研究期間
- 2011 〜 2012 年度
- 研究担当者
- 鈴木秀彦、齊藤陽介、渡邉智、沼邊孝
- 発表論文等
- 1)鈴木秀彦(2012)畜産技術、689:31-33