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更新草地でのオーチャードグラスの放射性セシウム濃度(移行係数)の動向
[要約]
オーチャードグラスの放射性セシウム(以下放射性Cs)濃度は、早刈りが適期刈りよりも高い傾向にある。放射性Cs の吸収抑制にはカリ施用が効果的であるが、番草別にその抑制効果が異なるため、土壌の交換性カリ含量に留意した肥培管理が必要である。
[キーワード]
移行係数、オーチャードグラス、交換性カリ含量、放射性Cs 濃度
[担当]
福島県農業総合センター畜産研究所・飼料環境科
[代表連絡先]
電話024-593-4159
[区分]
東北農業・畜産
[分類]
研究成果情報
[背景・ねらい]
東京電力福島第一発電所の事故に伴い放射性セシウム(以下放射性Cs)が広く拡散し、その放射性Cs に汚染された草地から生育した牧草は高いレベルで放射性Cs に汚染されていることから、多くの試験研究機関がプラウ耕等による草地更新の効果を明らかにし、多くの自治体が草地の除染技術として採用している。しかし、プラウ耕等による草地更新後のオーチャードグラスの放射性Cs 濃度の動態が明らかではないため、肥培管理技術が確立していない。そこで、更新後草地のオーチャードグラスの放射性Cs の動態を調査し、放射性Cs の牧草への移行を抑制する効率的・効果的な肥培管理のあり方を明らかにする。
[成果の内容・特徴]
- 二番草の早刈りと適期刈りの放射性Cs 濃度を比較すると早刈りが高い傾向にある。牧草の適期刈りが早刈りの放射性Cs 濃度よりも低くなるのは、草丈が伸び全体的に希釈されるためと考えられる。また、生草(立毛)の放射性Cs 濃度及び移行係数は三番草早刈りが一番高い傾向にある(図1)。
- 本試験は、2011 年9月にプラウ耕による更新をした草地の2012 年のオーチャードグラスの動向を各番草(n=5)ごとに調査している。土壌については、オーチャードグラスの株元から3点ずつ採土器を用いて採取し、3点を混合して1つのサンプルとした後、そのサンプル毎にゲルマニウム半導体検出器で放射性Cs 濃度を測定したが、草地内の放射性Cs 濃度の差が大きい。これは、草地内に巨礫等が点在しているため、プラウが巨礫等の接触面からはじかれ、場所によっては反転が充分になされなかったと推察される(図2)。
- 生草、予乾後(機械集草直後)及びサイレージの放射性Cs 濃度を比較すると、予乾後やサイレージが生草時よりも高くなる(表1)。二番草の予乾草やサイレージの放射性Cs濃度の生草対比が他の番草よりも特に高いのは、牧草刈取後に降雨が続き、刈取牧草を乾燥促進するヘイテッダによる反転回数が他の番草の収穫作業時よりも多く、土壌等の巻き込みが多かったことによるためと推察される。
- 一番草から三番草までの土壌の交換性カリ含量と移行係数を見ると、各番草内では交換性カリ含量が高くなるほど移行係数が低くなる傾向にあり、かつ、番草を経るごとに交換性カリ含量は増える傾向にある。また、仮に移行係数を0.1 程度に抑制したいと想定すれば、一番草では交換性カリ含量が10mg/100g でも充分であるが、三番草では30mg 程度でも不充分であり、より精密な番草毎の肥培管理が必要であることが示唆される(図3)
[成果の活用面・留意点]
- 放射性Cs に汚染された牧草地での肥培管理に活用できる。
- 本試験は原発事故後2年目の黒ボク土での結果であり、他の土壌条件では別途検討を要する。
- 土壌の交換性カリ含量を高めるとオーチャードグラス自体へのカリ蓄積を高めると想定されるため、石灰や苦土の施肥量も含めオーチャードグラスのミネラルバランスに留意する必要がある。
[具体的データ]




(福島県)
[その他]
- 研究課題名
- ロールサイレージ調製時の放射性セシウム濃度の上昇
- 予算区分
- 県単
- 研究期間
- 2012年度
- 研究担当者
- 吉田安宏、片倉真沙美、遠藤幸洋、武藤健司