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津波被災農地における雑草植生の変化とコウキヤガラ発生リスクマップの作成

[要約]

被災農地においては水稲作付け再開と休耕地管理にともない、被災直後の雑草繁茂は解消されつつあるがコウキヤガラの発生頻度は依然高い。被災前の圃場整備状況や被災後に整備された堆積土砂厚等のGISデータからコウキヤガラの発生リスクが予測できる。

[キーワード]

津波被災農地、コウキヤガラ、GIS、農業基盤情報基礎調査、水土里情報

[担当]

宮城県古川農業試験場・水田利用部

[代表連絡先]

電話0229-26-5106

[区分]

東北農業・稲(栽培)

[分類]

研究成果情報

[背景・ねらい]

東日本大震災の大津波により、瓦礫や泥土が流入し耕作管理が不能となった農地では、被災後に様々な雑草が繁茂し、復旧後の営農に大きな影響を及ぼすことが懸念される。また、被災休耕を機に、従来から沿岸部の水稲作で問題となっていたコウキヤガラの分布拡大も危惧される。そこで、被災農地における雑草植生の実態と、農地復旧に伴うその草種構成の変化を追跡し、休耕期間中の適正管理と円滑な営農再開に資する基礎資料を得る。さらに,コウキヤガラの分布と震災後に整備された農地情報(GISデータ)との関係を明らかにし、コウキヤガラの発生リスクの分布を予測する。

[成果の内容・特徴]

  1. 被災年(2011年)は圃場内のイヌビエや畦畔部分のシロザなど,多様な雑草が繁茂したが、復旧工事の進展、水稲作付けの再開および休耕農地の除草剤散布等による管理により、翌年(2012年)は、前年優占していた草種の出現率は概ね減少している。しかし、コウキヤガラについては作付けが再開された圃場を含めて圃場内の出現率はさほど低下していない(表1)。
  2. 圃場内のイヌビエの発生確率は被災後経過日数のみが有意に影響し、被災当年より翌年で少ない傾向は確認されたが、圃場の立地条件との関係は明確ではない。一方、コウキヤガラの発生確率には圃場整備状況や被災程度が有意に影響している。すなわち、区画面積が大きく用水路が整備され、津波による堆積土砂が厚く、地盤沈下量が大きい地域ほど出現率が高い傾向が認められる(表2)。
  3. 津波被災農地全域のGISデータと、2011、2012年のコウキヤガラの分布調査を基にした多重ロジスティック回帰モデルにより、任意の被災地域(圃区単位)におけるコウキヤガラの発生確率を予測するリスクマップを作成できる(図1)。

[成果の活用面・留意点]

  1. モデルの作成は宮城県内の津波被災水田において2カ年行ったのべ85地点(南部沿岸41地点、北部沿岸44地点)の雑草植生調査の結果を用いている。
  2. モデルの変数として用いた地勢データは国土交通省公表「標高・傾斜度3次メッシュ第1.0版」「河川第2.0版」「海岸線 第2.0版」を基に算出、面的整備データは東北農政局提供「農業基盤情報基礎調査」、被災程度は宮城県土地改良事業団体連合会提供の「水土里情報システム津波被災農地情報」10haメッシュ被害状況調査のデータを用いて調査地点毎に算出した値を用いている。
  3. モデルで示されたコウキヤガラの分布特性は、他草種に比べ土中の深い位置からも塊茎からの出芽が可能で耐塩性も高い、本草種の生態特性を反映したものと考えられる。
  4. コウキヤガラ発生のリスクマップは、今後の農地復旧過程の耕地管理および営農再開後における広域的防除計画に活用できる。

[具体的データ]

(宮城県古川農業試験場)

[その他]

研究課題名
「津波被災水田の実態調査と除塩法・栽培管理技術の確立」
予算区分
県単・復興交付金
研究期間
2011-2012 年度
研究担当者
大川茂範(宮城県古川農業試験場)