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宮城県水稲作における5年間のリン酸50%減肥が土壌リン酸肥沃度に与える影響

[要約]

宮城県の稲わらを還元する水稲作において、トルオーグリン酸で15mg-P2O5/100g乾土以上の灰色低地土であれば、リン酸を5年間50%減肥してもトルオーグリン酸は土壌改良が必要な6mg-P2O5/100g乾土にまで低下せず、ブレイIIリン酸も減少しない。

[キーワード]

水稲、リン酸50%減肥、トルオーグリン酸、ブレイIIリン酸

[担当]

宮城県古川農業試験場・土壌肥料部

[代表連絡先]

電話0229-26-5107

[区分]

東北農業・生産環境(土壌肥料)

[分類]

研究成果情報

[背景・ねらい]

米価下落を受け、生産コスト低減について関心が高まっている。リン酸は原料となる鉱物資源が限られており、肥料価格高騰のリスクが高い。そこで、水稲において土壌に蓄積されたリン酸を利用し、減収および極端な土壌リン酸肥沃度の減耗を避けて、リン酸減肥が可能かどうかについて検討する必要がある。宮城県では3年間のリン酸減肥試験から、普及に移す技術87号で水稲のリン酸減肥基準を示しているが、4年間以上の減肥による土壌リン酸肥沃度へ与える影響は評価されていない。

本研究では、宮城県水稲作における5年間のリン酸50%減肥が可給態リン酸へ与える影響について明らかにする。

[成果の内容・特徴]

  1. 減肥区(リン酸50%減肥)の5年間の施肥量は20kg-P2O5/10a/5年であるのに対し、収穫物(穂)のリン酸吸収量は19.7〜24.9kg-P2O5/10a/5年である(表1)。このため、施肥量から収穫物(穂)のリン酸吸収量を差し引いた値は +0.3〜-4.9kg-P2O5/10a/5年となる。
  2. 減肥区のトルオーグリン酸は、稲わら還元条件で減肥開始から3年目まで減少するが4年目から減少が見られなくなる(表2図1左)。また、減肥区と標準対照区との差と栽培年数との間に負の相関が認められる(図1右)。したがって、5年間のリン酸50%減肥により、標準施肥区に対して平均で1.5mg-P2O5/100g乾土低下する。
  3. 黒泥土および灰色低地土では減肥5年目のブレイIIリン酸(6月下旬〜7月上旬の作土から抽出)は1年目よりも高く、栽培中のブレイIIリン酸は低下していない(図2)。
  4. 以上より、トルオーグリン酸で15mg-P2O5/100g乾土以上の灰色低地土であれば、リン酸を5年間50%減肥してもブレイIIリン酸の減少は認められず、トルオーグリン酸は土壌改良が必要な6mg-P2O5/100g乾土にまで低下しない。

[成果の活用面・留意点]

  1. 供試土壌の5年間の平均収量は標準施肥区が559kg/10a、減肥区が541kg/10aであった。また、黒ボク土以外、リン酸欠乏による収量品質の低下は見られなかった。
  2. 宮城県普及に移す技術第87号において、灰色低地土についてトルオーグリン酸が15mg-P2O5以上であればリン酸を50%減肥可能、6mg-P2O5/100g乾土未満であればリン酸標準施用の他に土壌改良資材の投入が必要とされている。

[具体的データ]

(宮城県古川農業試験場)

[その他]

研究課題名
水稲単作におけるPK減肥基準の策定
予算区分
受託
研究期間
2009〜2013年度
研究担当者
阿部倫則、鈴木 剛、小野寺博稔
発表論文等
阿部、小野寺(2012)宮城古川農試報、10:25-32
宮城県古川農業試験場(2012)普及に移す技術、87:105-108