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始原生殖細胞及び比内鶏判定マーカーを用いた比内鶏の復元
[要約]
比内鶏DNA識別マーカーを用いることによって、比内鶏の始原生殖細胞を移植した雄の生殖系列キメラニワトリの判別が可能となるとともに、生殖系列キメラニワトリから生まれた比内鶏由来の産仔を形態的のみならず分子遺伝学的に確認することができる。
[キーワード]
比内鶏、始原生殖細胞、生殖系列キメラニワトリ、DNA識別マーカー
[担当]
秋田県畜産試験場・比内地鶏研究部
[代表連絡先]
電話0187-72-3813
[区分]
東北農業・畜産
[分類]
研究成果情報
[背景・ねらい]
近年、国内においても高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)の発生が確認されており、その流行によるへい死やそれに伴う殺処分によって貴重な品種や系統の消滅が危惧されている。比内鶏は秋田県の貴重な遺伝資源であるが、比内鶏がHPAIに感染し、すべて処分された場合には、本県の特産鶏である比内地鶏の生産は不可能となる。このような背景からも伝染病等の感染前に貴重な原種鶏の遺伝資源を細胞レベルで保存し、復元できる技術を確立しておくことが必要とされている。現在、生殖系列キメラニワトリの判別に用いられる方法は、後代検定が主流である。しかしながら、従来の後代検定による生殖系列キメラニワトリの判別には、長期間を要するうえ労力を費やすことから、より簡便かつ精度の高い分子学的手法を用いた生殖系列キメラニワトリの判別法の開発が求められている。後代検定に加え、分子遺伝学的手法はPGCs由来産仔の判別の精度を高めることが可能である。我々は以前にマイクロサテライトマーカーによる比内鶏のDNA識別手法を開発した。本研究では、比内鶏の始原生殖細胞(PGCs)を用いて生殖系列キメラニワトリを作出し、比内鶏の産出を試みるとともに比内鶏DNA識別マーカーの有効性について検証することを目的とした。
[成果の内容・特徴]
- 比内鶏のPGCsを白色レグホーン胚(2.5日胚)の血管へ移植して生まれた雄操作個体について、比内鶏DNA識別マーカーを用いて精液中のDNAを解析すると、ドナーである比内鶏由来の対立遺伝子が検出される(図1)。後代検定を行うと、これらの雄操作個体からはドナーPGCsに由来する後代が得られることから、比内鶏DNA識別マーカーは生殖系列キメラニワトリを有効に判別することができる。
- 後代検定の結果から生殖系列キメラニワトリであると確認された雄個体と雌個体を交配すると、ドナーである比内鶏由来の産仔を得ることができる(図2)。比内鶏DNA識別マーカーを用いてこの産仔のDNAを解析すると、ドナー由来の対立遺伝子のみが検出され、形態的のみならず分子遺伝学的にも比内鶏であることが確認できる(図3)。
- 生殖系列キメラニワトリから生まれたPGCs由来の比内鶏は正常な繁殖能力を有する(図4)。
[成果の活用面・留意点]
- DNA識別マーカーを用いることによって後代検定前に生殖系列キメラニワトリの判別が可能となり、後代検定に要する時間や労力を削減することができる。
- 始原生殖細胞を用いて生殖系列キメラニワトリを作出することにより、比内鶏をはじめ貴重品種の遺伝資源を保存・復元することが可能となる。
- ドナーの復元率を上げるためには、宿主胚由来のPGCsを可能な限り減らす必要がある。
[具体的データ]




(力丸宗弘)
[その他]
- 研究課題名
- 始原生殖細胞及び比内鶏判定マーカーを用いた比内鶏復元技術の確立
- 予算区分
- 県単
- 研究期間
- 2010〜2012年度
- 研究担当者
- 力丸宗弘、高橋大希、小松 恵
- 発表論文等
- 1)Rikimaru K. et al. (2011) J. Poult. Sci. 48(4):281-291
- 2)Rikimaru K. et al. (2014) J. Poult. Sci. 51(3):297-306