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宮城県の津波被災農地における雑草植生と斑点米カメムシ類発生の特徴

[要約]

被災農地のうち内陸部の地域では水田内のイヌホタルイの残草がカメムシ類による斑点米被害を助長する。沿岸部のコウキヤガラ等が繁茂した休耕田が混在する地域では、休耕田が斑点米カメムシ類の発生源となり、水稲作付け水田内への飛び込みが生じうる。

[キーワード]

津波被災農地、斑点米カメムシ類、イヌホタルイ、コウキヤガラ、休耕田

[担当]

宮城県古川農業試験場・作物保護部・水田利用部

[代表連絡先]

電話0229-26-5108

[区分]

東北農業・生産環境(病害虫)・稲(稲栽培)

[分類]

研究成果情報

[背景・ねらい]

東日本大震災大津波の被害を受けた農地では、比較的被害の小さい内陸部から被害のより大きい沿岸部に向けて順次復旧が進められてきた。その結果,津波被災農地の中には、早期復旧を果たした地域から復旧後間もない地域まで様々な水田が存在しており、水稲の作付け環境も多様であるため各々の状況に応じた適切な管理が必要である。そこで、水稲作付け開始年の異なる内陸部から沿岸部にかけた復旧農地において、雑草植生と斑点米カメムシ類の発生の特徴を明らかにし、地域毎の雑草・害虫防除の指針を得る。

[成果の内容・特徴]

  1. 早期に復旧し水稲の作付けを開始した内陸部の地域では、復旧後間もない地域と比べて、水稲作付け水田内にイヌホタルイやノビエの残草が多い。イヌホタルイ・ノビエはいずれの地域でも残草している一方で、沿岸部の水稲作付け水田では特異的にコウキヤガラの残草割合が高い(図1)。
  2. アカスジカスミカメが寄主とするイヌホタルイ、ノビエ、コウキヤガラのうち、残草量と斑点米の発生との間に有意な相関が認められるのはイヌホタルイのみである(p<0.05,多重ロジスティック回帰分析)。特に早期に水稲の作付けが再開された内陸部では、水田内にイヌホタルイが残草している場合に斑点米の発生リスクは高まる。一方、復旧後間もない沿岸部の水稲作付け水田では、水田内のイヌホタルイの有無でも斑点米の発生を説明できず、さらに、内陸と比べ水稲出穂期から8月下旬にかけて、斑点米カメムシ類発生量の増加が著しい(図2)。
  3. 復旧後間もない沿岸部の地域には、ほ場区画は復旧したものの未だ作付けされない休耕田が混在している(図3)。それら休耕田にはコウキヤガラを中心とした雑草が繁茂しており、斑点米カメムシ類の発生源となっている。沿岸部地域の水稲作付け水田における、水稲出穂期から8月下旬にかけてのカメムシ発生量の急増は、この休耕田からの飛び込みによるものと考えられる(図4)。

[成果の活用面・留意点]

  1. 本成果は2011年から復旧が進められている宮城県A市の津波被災農地において、2012年から2014年に行った3ヶ年の調査を基にしている。水稲の作付けを再開した水田を順次調査地点としているため、作付け開始年の違う地域毎に調査年数が異なる。
  2. 津波被災農地でも、内陸部は一般的な水田と同じく、イヌホタルイを中心とした水田内雑草の管理により斑点米被害を抑えることができる。一方、復旧後間もない沿岸部には、アカスジカスミカメの重要な寄主であるコウキヤガラが特異的に多発する地域も存在する(佐藤ら2013、大川2013)。そのような地域において水稲作付け水田と休耕田が混在する場合には、休耕田がコウキヤガラおよび斑点米カメムシ類の温床となるため、水稲作付け水田内の防除に加えて,周辺休耕田の雑草管理も徹底する必要がある。

[具体的データ]

(宮城県古川農業試験場)

[その他]

研究課題名
「被災水田の土壌理化学性および雑草,病害虫発生の実態と早期再生技術の開発・実証」
予算区分
先端技術展開事業
研究期間
2012〜2014年度
研究担当者
大江高穂、大川茂範,佐藤直紀,櫻田史彦,加進丈二,大槻恵太,相花絵里(宮城古川農試)