山村ツーリズムによる地域内所得・雇用創出効果の計測手法とその適用


[要約]
県産業連関表から山村地域産業連関表を生成し、ツーリズムの地域内所得・雇用創出効果を計測した。ツーリズム産業の地域外原材料仕入割合が高いため、地域内産業への波及効果が小さく、所得・雇用創出効果は大きくない。ツーリズム形態間比較では、民宿宿泊型が最も大きい。
奈良県農業試験場・企画調整室・研究企画チーム
[連絡先] 0744-22-6201
[部会名] 営農
[専 門] 経営
[対 象] 
[分 類] 研究

[背景・ねらい]
 山村地域では,農林業低迷が雇用機会を縮小している。しかし、他方では,ツーリズムが新たな所得や雇用を創出している。そこで、奈良県十津川村を事例とし、ツーリズムの地域内所得・雇用創出効果計測手法を提案し、ツーリズム形態間による効果の比較に適用した。

[成果の内容・特徴]

  1. 計測手法は以下のとおりである。所得や雇用は観光客が支出した産業部門に発生するだけではなく(直接効果)、その産業部門へ原材料を供給する部門にも波及し(間接効果)、これら部門に発生した所得が消費に回ることによっても誘発される(誘発効果)。産業連関分析により、以上の効果を計測した。
  2. 手法の適用は以下のとおりである。(1)国や県の産業連関表から地域の連関表を生成する手法のGRIT法により、県連関表から十津川村連関表を生成した。(2)連関表より、観光客の支出対象となる産業部門について、各部門に需要が100万円発生した時、地域内に創出される所得や雇用を推定した(表1)。(3)ツーリズムの形態をホテル・旅館宿泊型、民宿宿泊型、日帰り型に分類し、観光客1人当り地域内支出金額を支出先産業部門別に調査した(表2)。(4)産業部門別需要100万円当り所得・雇用創出効果(表1)と観光客支出先産業部門別支出金額(表2)を結合し、地域内所得・雇用創出効果を推定した(表3)。
  3. 結果は以下のとおりである。(1)観光客支出100万円が創出する雇用は0.2〜0.3人、所得は50万円弱にすぎない(表3)。これは地域外からの原材料仕入割合が高く、間接効果が低く、地域内歩留まり率が低いことによる(表3)。(2)ツーリズム形態間比較では民宿宿泊型が大きい(表3)。この要因の1つは民宿部門の所得率が高いため、直接および誘発効果が大きいことである(表3)。2つは、地域内農林水産業部門からの仕入割合が高く、間接効果が大きいことである(表3)。地域の農林水産業が零細性であるため、食材の安定仕入が要求される旅館・ホテル部門は地域外からの仕入れに依存するが、民宿部門は旬の地場食材を活用できる。(3)土産店や道の駅など商業部門への需要が創出する所得や雇用は大きくない(表1)。これは、地域外製品が販売されることや、売上の相当部分を食料品が占めるが、食料品製造部門も、原材料の安定仕入が要求されるため、地域内農林水産業からの仕入割合が低いことによる。

[成果の活用面・留意点]

     山村ツーリズムの経済効果の地域間比較やツーリズム形態間比較に活用できる。

[その他]
研究課題名:紀伊半島南部地域における農林業の環境便益と経済発展に関する研究
予算区分 : 県単
研究期間 :平成11年度(平成11〜12年)
研究担当者:藤本高志

目次へ戻る