夏期の気象変動に対応したニホンナシ「幸水」の高品質果実連年生産技術
- [要約]
- 夏期の気象変動下でニホンナシ「幸水」の高品質果実を連年生産するには、果実肥大率を利用した生育診断を行い、被害許容水準を超えた場合は少雨高温時の尿素液葉面散布とかん水、多雨寡日照時の着果量軽減と新梢誘引等の対策を実施する。
広島県立農業技術センター・果樹研究所・落葉果樹研究室
[連絡先]0846-45-1225
[部会名]果樹
[専 門]栽培
[対 象]果樹類
[分 類]指導
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[背景・ねらい]
- ニホンナシ「幸水」は、夏期の少雨高温または多雨寡日照により果実品質が低下し、翌年以降も被害が及んでいる。そこで、干害・雨害を早期に発見し、被害を軽減するために、生育診断と事前・事後対策の組み合わせにより、高品質果実の連年生産技術を確立する。
[成果の内容・特徴]
- ニホンナシ「幸水」の干害・雨害に対する生育診断(以下、生育診断)は、現場での果実肥大調査、指導機関等でのデータ解析および生育阻害の診断からなる(図1左)。
- 生育診断は満開後60日より始め、以後70日、80日および90日の果実肥大率の平年差が被害許容水準(少雨高温時に-5%、多雨寡日照時に-8%)を超えた場合には、事後対策を実施する(図1左)。
- 少雨高温の事後対策は、0.6%尿素液を7日毎に3回葉面散布するとともに、主根群域の土壌水分吸引圧pF2.2をかん水点とする水管理を収穫期まで続ける(図1右)。
- 多雨寡日照の対策は、樹冠占有面積を基準に着果量を1m2 当たり5果に軽減し、予備枝由来の発育枝等を1m2 当たり1本、棚面に対して30〜45°に誘引する(図1右)。
- 細根活性化対策としてのボーリング処理は、4〜5年に1回ボーリングノズルにより樹冠占有面積1m2 当たり1穴の割合で暗渠または砂礫層の深さまで行う(図1右)。
- 生育診断による対策を行うと、当年の果実糖度と大玉果率が高まり、花芽着生が改善され、翌年の着果管理が適正化されるので、2年間の10a当たりの差引利益は無対策に比べて干害対策により113,785円の黒字、雨害対策により17,546円の赤字となる(表1)。しかし、雨害対策により商品性が高まり、収量の回復が早まるので(表1)、翌年は増益となっており、3年間では黒字に転じるものと考えられる。
[成果の活用・留意点]
- 対象とした生育診断の時期は満開後60〜90日であり、他時期の利用は検討を要する。
- 少雨高温時のかん水点は、水源不足を想定しており、十分な水源が確保されている場合のかん水点は、満開後100日までpF1.6、以後収穫期までpF2.2とする。
[その他]
研究課題名:果樹の根域環境改善と生育制御による高品質果実の持続的安定生産技術の確立
予算区分 :新技術地域実用化研究促進事業
研究期間 :平成12年度(平成8〜12年)
研究担当者:中元勝彦、加納徹治、松本 要
発表論文等:排水不良園でのボーリング処理によるナシ「幸水」の果実品質と花芽着生の向上、近畿中国地域における新技術34、143-145、1999.
冷夏長雨年のナシ「幸水」の果実肥大率低下指標による品質と花芽着生率の早期診断、平成10年度近畿中国研究成果情報、343-344、1998.
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