[成果情報名]

環境保全型農業技術の取り組みによる水稲作付期の流出負荷低減効果

[要約]  化学肥料・化学合成農薬の使用量を通常の5割以下に低減する特別栽培米生産技術に適正な水管理と 側条施肥を組み合わせた環境保全型農業技術体系は、水稲作付期の栄養塩類・濁水・農薬成分の流出負荷量を 確実に低減できる。
[キーワード] 水管理、側条施肥、特別栽培米、環境保全型農業、流出負荷量
[担当] 滋賀農技セ・環境研究部・環境保全担当
[連絡先] 電話0748-46-2500、電子メールhasukawa-hiroyuki@pref.shiga.lg.jp
[区分] 近畿中国四国農業・生産環境(土壌・土木・気象)
[分類] 技術・参考

[背景・ねらい]
 滋賀県では全国に先駆けて2004年に環境農業直接支払制度(環境こだわり農産物の栽培について、 農業者等が県と協定を締結し、経済的助成を受ける)を創設し、環境保全型農業技術の取り組みを推進している。 また、国でも2007年から「農地・水・環境保全向上対策」の中で環境保全に向けた先進的な営農活動を総合的に 支援する予定になっている。
 このような中、環境直接支払いに対する理解と支持を得て、より一層の推進を図るため、現地ほ場において 環境保全型農業技術の取り組みによる水稲作付期の栄養塩類・濁水・農薬成分の流出負荷低減効果を定量的に 評価する。
[成果の内容・特徴]
  1. 実証区では、県独自の特別栽培米栽培基準(環境こだわり農産物栽培基準)に基づき、 化学合成農薬および化学肥料(N成分)の使用量を通常(慣行栽培:対照区)の5割以下に削減すると ともに、農業排水を適正に管理(濁水の流出防止等)する栽培を行っている (表1)。
  2. 水収支については、実証区では水田ハローによる浅水代かきや移植前・中干し前の強制落水防止等の 適正な水管理により、用水量が節減され、地表排水量が低減する(表2)。
  3. 実証区では適正な水管理や施肥改善(側条施肥・速効性肥料減肥)によって、T−N、T−P、COD およびSS(懸濁物質)の流出負荷量が低減する(本調査では、T−N48%、T−P 14%、COD 30%、 SS 48%の低減)。また、差引排出負荷量(流出負荷量−流入負荷量)についても同様の低減効果が みられ、特にT−Nについては、両区とも側条施肥によって浄化型(マイナス)となり、実証区では さらに浄化機能を発揮していると評価される(表3)。
  4. 水稲の精玄米収量および品質については、実証区では対照区と同水準が確保できる。また、実証区では 窒素収支(収入−支出)が低くなり、水と肥料が効率的に利用されていると評価される (表4)。
  5. 農薬成分の流出については、実証区では対照区と比較して使用成分の数・量ともに少なくなり、 また水溶解度の比較的高い成分や土壌吸着率の低い成分の除草剤を選択しないため、流出量・流出率ともに 低減する(表3、詳細のデータ略)。
[成果の活用面・留意点]
  1. 本成果は2005年の精密調査ほ場の結果であり、2006年も精密調査ほ場と水田群において調査を実施 しており、面的な取り組み効果を総合的に評価する予定である。
  2. 試験地の水田群は、協業体制の集落営農組織により管理されており、集落全体での環境こだわり農業の 取り組みや側条施肥の導入により、対照区のT−N流出負荷量は当センターで調査した過去27事例と 比較して、低いレベルにある。
  3. 今後、年間の流出負荷量を確実に低減するためには、非作付期における流出負荷低減技術が 重要であり、地域の土壌・気象条件に合った土壌管理法を確立する必要がある。

[具体的データ]

[その他]
研究課題名 環境こだわり農業環境影響調査事業
予算区分 県単(一部国補)
研究期間 2004〜2006年
研究担当者 蓮川博之、駒井佐知子、高橋有紀、水谷智、柴原藤善(滋賀農技セ)

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