水稲の感温特性を考慮した被覆肥料の選定法

[背景・ねらい］

　被覆肥料の窒素溶出速度は温度の影響を受けるため、被覆肥料を用いた水稲の全量基肥施肥技術を 確立するためには栽培地域の気象条件に適した肥料の選定が必要である。一方、水稲の生育速度も温度の 影響を受け変動し、水稲のシグモイド溶出型の被覆肥料は幼穂形成期の肥効発現をねらい施用されるため、 被覆肥料の窒素溶出開始時期と水稲の幼穂形成期の温度に対する反応特性を把握する必要がある。そこで、 反応速度論的解析により求められる感温特性値を用いて、栽培地域における両者の関係を明らかにし、 さらに気象変動にも適応する被覆肥料を選定する。

[成果の内容・特徴］

1. コシヒカリの幼穂形成期に対する温度の影響は、式�Tを用いた 反応速度論的手法の温度変換日数法により求めることができ（図１）、 13作期のデータから求めた幼穂形成期の感温特性値は、見かけの活性化エネルギー（以下、Ea）が 約21,000cal、標準温度変換日数（地温25℃）は46日である（表１）。
2. シグモイド溶出タイプの60、80、100日型（熱可塑性・ポリオレフィン系樹脂）を供試し、 式�Uを用いた反応速度論的解析により窒素溶出開始時期に対する 温度の影響をみたところ、溶出開始時期に対するEaは溶出タイプによる差は小さく、また幼穂形成期の Eaよりもやや小さい約17,000〜18,000calである。また、溶出開始期の標準温度変換日数（地温25℃）は それぞれ35、47、53日であり、80日溶出型被覆肥料の溶出開始期が幼穂形成期と同等の値を示す （表１）。
3. 岡山県中北部地域を例にとり、コシヒカリの幼穂形成期とシグモイド溶出タイプの溶出開始期の関係を 予測してみると、平年、低温年（1993年）、高温年（1994年）のいずれの気象条件下でもほとんどの地域で 80日溶出型における両者の差が小さく、対象地域の気象条件に適すると推定される （図２）。

[成果の活用面・留意点］

1. 幼穂形成期と窒素溶出開始期の差の適正範囲については今後検討の必要があるが、気象条件に かかわらず両者の差が小さいことが望ましいと考えられる。
2. 反応速度論的解析に用いる温度は、地温である。
3. 水稲、被覆肥料の感温特性値は、品種、肥料の種類毎にそれぞれ異なる。このため、水稲については 対象品種を作期移動試験等に供試し、広い温度域での試験結果を準備する必要がある。また、被覆肥料に ついては温度別の培養試験を実施し求めるか、あるいは肥料メーカー等からデータを入手する必要がある。
4. 分布図（図２）は、アメダス１kmメッシュ気象データ （気温、日射量）から計算した予測地温等から計算し作成する（詳細は省略）。

［具体的データ］

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