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53.高知

自然の恵みを生かした施設園芸

 <1984年5月8日観測画像>

西の足摺岬から,東の室戸岬まで,大きく開けた土佐湾。紺碧の黒潮が洗う海岸には,スタジイ,ウバメガシ等,常緑の照葉樹林がまぶしい。海岸まで山が迫り,県面積の84%が山林で,耕地は6%にすぎない。平坦な沖積地と呼べるのは物部川,国分川,鏡川河口の高知平野,四万十川河口の中村平野くらいである。そこでは河岸段丘,海岸の砂地,中小河川の河口の扇状地的小平野が主な農耕地である。

耕地に占める水田の割合は72%と高いが,傾斜1/20以上の棚田が17%もあり,基盤整備率は12%にすぎない。また,畑地の6割が8度以上で,15度以上の急傾斜畑が37%もある。そこで果樹(4,300ヘクタール),桑(1,240ヘクタール),茶(1,050ヘクタール)等の他,コウゾ,ミツマタ等が栽培されている。

草地は比較的少ないが,肉用牛土佐褐毛和種の放牧−夏山冬里方式−に利用される牧場が,四国カルスト始め,1000メートル級の山頂部などに開かれている。

気候は,海寄りでは年平均気温17〜18度で,半島部には無霜地帯もある。年降水量は2200〜3000ミリ,冬季には乾燥晴天が多い。一方,山岳地帯では年平均気温13〜14℃,降水量2500〜3500ミリと,冷涼多雨で,冬期には積雪をみる。

さて,画像は5月8日の高知県中央部を撮している。すなわち,沿岸部では芸西村から須崎市付近まで,内陸部は愛媛県との境,四国の屋根と云われる四国山地の一部,標高1756メートルの伊予富士左下付近までが含まれる。断層山脈が平行して東西に走り,川沿いの段丘,小盆地に淡い藤色の集落,白緑色の棚田が認められる。また,ふりむいた龍のような早明浦ダム(吉野川)ほか多くのダムが用水をたたえている。

高知市から物部川河口にかけての暗緑青色の広がりは,4月中旬に田植えした早期作水田である。この地域ではかって水陸2期作が行われたが,減反政策下の今日では8月初旬の収穫後,野菜作または超晩播大豆へと続く。仁淀川河口近くも同様である。一方,物部川河口から上方,白く見えるのは,まだ水の入っていない晩期作水田である。高知市,南国市,安芸市を含むこの両地域は,ハウス園芸のメッカで,ビニールハウス群は,集落と混在しながら,海浜砂地を浦戸湾口付近へと連なる。

農業粗生産額に占める野菜の比率は,昭和60年には49%(696億円)と高い。これらの野菜は京浜地帯を中心に全国へ出荷し,市場での地位も高いが,その54%が施設で生産されるところに特色がある。野菜用施設実面積は,1,558ヘクタールの昭和54年をピークに漸減傾向だが全国4位,生産量は14万トンで3位である。ナス,キュウリ,サヤインゲン,温室メロン等が上位にある。

他県に比べ冬季の日射量が多く,温暖である反面,季節風,台風害が多い。施設の構造は耐風性に主眼を置いたところに特色があり,また二重固定被覆は日射量の多い高知ならではの開発技術である。

石原 暁(四国農業試験場)

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