農作業安全コラム

農作業事故は高齢者だけに多いのか?

H29年10月 積 栄

 2015年12月2016年3月と、これまで同コラムでは、農作業死亡事故がいかに多いかについて、様々な切り口で考えてきました。その後、一般紙でもこのことについて取り上げた記事が掲載されたのですが、その際の読者の書き込みや、実際に我々も直接耳にする声として、「農業では高齢者が相当多いのだから、事故が多いのも当然」というものが多くありました。

 現場で農作業事故の原因調査を行っている身としては、この意見に違和感を覚えました。実際には、若い担い手が作業中の危険に気付かず、事故を起こしてしまっている事例も多く目にしているからです。そこで、農作業死亡事故発生件数のうち、他産業とほぼ同様に65歳未満での事故に限定して、農業就業人口10万人あたりの死亡事故件数を計算し、2016年3月に示した就業者10万人あたり死亡事故件数のグラフに重ねてみました。

 すると、確かに全年齢層での死亡事故発生率よりは低いものの、それでもここ数年をみれば建設業を上回る数字となっていました。つまり、高齢者という要素を除いたとしても、農業が日本を代表する危険業種であることに変わりはない、ということです。そこに、多くの高齢就業者の存在が加わるのですから、やはり事態は相当深刻である、という認識でいるべきでしょう。

 実は、死亡事故だけでなく負傷事故の情報も収集しているいくつかの道県について、年齢層別に農業就業人口あたりの事故発生率を分析すると、多くの地域で、死亡事故は高齢の方が高い数値を示す一方で、負傷事故は逆に若手の方ほど発生率が高い、という傾向も確認されています。今後、さらに分析を行う予定ですが、このことからも、「事故自体は年齢を問わず起きており、農業全体の安全レベルを上げなければならない」ということが言えるのではないでしょうか。

 見方を変えれば、就農後早いうちから安全な農作業を身につけておけば、先々まで(高齢者になっても)事故なく元気に農業を続けられる、とも言えるはずです。自治体や農協等の関係機関では担い手層も重視した安全対策や情報発信を、若手を含む全生産者においては積極的に情報を得て作業の改善に取り組むことを、ぜひ考えていただければと思います。我々もできる限りのお手伝いをさせていただく所存です。



 

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