2 牛の大脳における未分化神経外胚葉性腫瘍 〔長内利佳(宮城県)〕

 黒毛和種,雌,12カ月齢,鑑定殺例.黒毛和種41頭の肥育農場で,1頭が11カ月齢時から興奮と沈鬱を繰り返し,12カ月齢時に起立困難と左旋回を呈したため,鑑定殺された.

 剖検では,嗅球から前頭葉脳底部に,黒色斑を混じた充実性白色腫瘤が形成され,大脳は前方へ伸長していた.腫瘤は特に左脳で大きく,左側篩骨窩が拡張していた.

 組織学的に,左脳前頭葉(提出標本)は,大部分が細胞質に乏しい小円形腫瘍細胞の増殖によって置換され,石灰化と肉芽腫形成を伴う広範な壊死巣が存在した.腫瘍組織では類円形〜多形核を持つ細胞が充実性または索状に増殖する部位,小型円形核を持つ細胞が蜂巣状に増殖する部位など,多様な像がみられ,核分裂像が散見された.一部にメラニン細胞が散在し,壊死巣との境界に多数分布する部位があり(図2A),小血管周囲には偽ロゼットが認められた(図2B).腫瘍細胞巣周囲に細網・膠原線維が増生し,残存脳組織には,血管周囲性リンパ球・組織球浸潤が認められた.免疫組織化学的検査により,多数のvimentin(PROGEN,VIM3134)陽性細胞,中等度のGFAP(BIT)陽性細胞及びS-100(DAKO)陽性細胞,少数のcytokeratin(DAKO,AE1/AE3)陽性細胞,まれにsynaptophysin(DAKO,SY38),neurofilament(DAKO,2F11)及びNSE(CHEMICON)各陽性細胞が検出された.透過型電子顕微鏡観察では,腫瘍細胞の大半が細胞内小器官に乏しい未分化細胞であり,一部に中間径フィラメントや微細管を豊富に持つ細胞,メラニン顆粒を持つ細胞が認められた.

 本症例の腫瘍細胞は,多分化能を有する神経外胚葉由来の未分化な細胞由来と考えられ,発生部位が大脳であったことから,未分化神経外胚葉性腫瘍と診断された.

牛の大脳における未分化神経外胚葉性腫瘍