30 子牛のアスペルギルス属菌による潰瘍性第四胃炎 〔村越奈穂子(愛知県)〕

 黒毛和種,雄,22日齢,鑑定殺.10日齢の子牛が導入当日より発熱,下痢,食欲廃絶を示し,カテーテル給餌,補液,抗生剤で治療したが,回復せず病性鑑定を実施した.

 剖検では,第一胃底部粘膜に直径3cm程の出血斑,漿膜面と脾臓の癒着,第二胃粘膜に多数の小出血斑,第四胃粘膜に水腫,多数の潰瘍や出血がみられた.また,胸腺萎縮,肺に点状暗赤色病変,気管に泡沫状物貯留,気管支膨隆がみられた.

 組織学的に,第四胃粘膜固有層から粘膜下組織に巣状広範な出血・壊死巣(図30A)が多発し,偽膜形成,小静脈の真菌侵入を伴う血栓,粘膜下組織の水腫がみられた.病変内の真菌は,PAS及びグロコット染色で幅が均一で隔壁を有し,Y字状に分岐していた(図30B).第二胃は第四胃と同様の病変を示し,第一胃は粘膜から漿膜に及ぶ貫壁性壊死を示し,真菌は太さが不均一で,不規則な分岐を示した.大脳右前頭葉上部髄膜に真菌侵入による血栓形成を伴う髄膜脳炎がみられた.免疫染色で,第二・四胃,髄膜の真菌は抗 Aspergillus fumigatus 抗体(DAKO)陽性,第一胃の真菌は抗 Rhizopus arrhizus 抗体(DAKO)陽性であった.その他に胸腺リンパ球減少と結合組織増生,回腸パイエル板やリンパ節の発達不全がみられた.

 本症例は,子牛の接合菌感染を伴う全身性アスペルギルス症と診断された.若齢での導入,抗生剤の使用に加え,免疫組織の機能不全が,全身への真菌感染の要因と考えられた.

子牛のアスペルギルス属菌による潰瘍性第四胃炎