32 豚の膿性カタルと陰窩膿瘍を伴う Lawsonia intracellularis による増殖性回腸炎 〔笠原香澄(福井県)〕

 LW種,雌,260日齢,斃死例.母豚約70頭を飼養する一貫経営の農場で,種豚が2009年11月23日からタール様血便を呈し,経過観察していたところ,12月1日に斃死が確認されため病性鑑定が実施された.

 剖検では,全身貧血状態を呈した.回腸から回盲部にかけて,管腔内に凝固した血液があり偽膜を形成していた.回腸粘膜は肥厚し皺壁を形成した.盲腸・結腸には大量の泥状便が充満していた.肺は水腫様を呈し,気管支内は泡沫状粘液が充満していた.その他の臓器には著変はなかった.

 組織学的に,回腸の腸陰窩上皮が扁平化し,杯細胞が減少し腺腫様に過形成していた(図32).腸陰窩内腔は好中球を含む細胞退廃物を容れて拡張していた.細胞浸潤の顕著なものでは,粘膜下組織にまで及ぶ膿瘍を形成した.回盲部では回腸側の腸陰窩上皮は過形成していた.ワーチン・スターリー染色で過形成した上皮細胞内に湾曲した菌体が存在した.粘膜下組織に線維素血栓が散在した.中程度の肺水腫を呈していたが,その他の臓器には著変はなかった.

 病原検索では,主要臓器から病原細菌は分離されなかった.豚コレラは陰性であった.回腸を材料とした Lawsonia intracellularis のnested PCRを実施したところ陽性であった.

 以上から,本症例は増殖性回腸炎と診断された.

豚の膿性カタルと陰窩膿瘍を伴うLawsonia intracellularisによる増殖性回腸炎