5 レンサ球菌感染症の子牛頸髄の化膿性壊死性灰白質炎・髄膜炎 〔中村理樹(熊本県)〕

 黒毛和種(ET産子),雌,55日齢.母牛35頭を飼養する繁殖農家で,2009年11月11日生まれの子牛が,発熱,左右眼球の混濁,前肢の跛行,後弓反張を呈し起立不能となり,2010年1月5日に病性鑑定に供された.

 剖検時,肺では一部に赤色肝変化,大脳では脳底部の黒色化と側脳室の軽度拡張,上部頸髄では髄膜の癒着が認められた.

 組織学的には,頸髄の灰白質全域で神経細胞と神経網が壊死脱落し,好中球やマクロファージなどが重度に浸潤していた.アストログリアの肥大が認められ,白質では軸索の腫大,髄膜に好中球などの浸潤,中心管にもマクロファージ浸潤を主体とした重度の病巣が認められた(図5).大脳,中脳,小脳及び橋では,腹側の髄膜と脈絡叢に好中球などの浸潤,脳室周囲の実質ではリンパ球の囲管性細胞浸潤,左右眼球,脾臓,胸腺及び肺では好中球の軽度から重度浸潤が認められた.病変部におけるグラム染色では陽性菌は認められず,抗 Streptococcus bovis 免疫家兎血清(動衛研)を用いた免疫組織化学的染色では陽性反応は認められなかった.

 病原検索では,主要臓器のうち大脳及び延髄からグラム陽性球菌が有意に分離され,生化学的性状から S. bovis biotypeTと同定された.リステリア菌は分離されず,異常産関連ウイルスの関与も認められなかった.血液検査では,白血球数の上昇が認められた.

 本症例で分離された S. bovis は遺伝子学的に再分類されており,分離菌は近年病原性が報告されている S. gallolyticus である可能性も考えられたが,詳細な検査は行われなかったため確定には至らなかった.本症例は子牛のレンサ球菌感染症と診断された.

レンサ球菌感染症の子牛頸髄の化膿性壊死性灰白質炎・髄膜炎