22 牛のグラム陽性球菌による栓塞性化膿性腎炎 〔阿部敏晃(徳島県)〕

 黒毛和種,雄,62日齢,鑑定殺.2011年3月17日生まれの子牛が出生時より前肢ナックリングを呈し,5月17日より起立不能となり,5月18日病性鑑定依頼があった.鑑定殺時の状態は,軽度削痩,呼吸速迫,動作困難,横臥状態であったが,前躯は介助すれば起立できる状態であった.

 剖検では,左房室弁に疣状腫瘤がみられた.また肺前葉の一部に暗赤色肝変化がみられた.

 組織学的には,主病変は腎皮質,特に糸球体に主座していた.初期病変として,ボウマン腔に漿液滲出,好中球浸潤がみられた.中期病変として,ボウマン腔に線維素析出,重度好中球浸潤,出血,半月体形成,メサンギウム増生などがみられ,これら病変により糸球体毛細血管は圧迫され,徐々に消失する様子が認められた.糸球体毛細血管内腔には,多数のグラム陽性球菌による菌栓塞がみられた(図22).末期病変として,糸球体毛細血管の固有構造は完全に消失し,膿瘍化あるいは増生ボウマン嚢上皮による置換がみられた.PAS反応では,糸球体毛細血管基底膜の肥厚は認められなかったが,ボウマン嚢基底膜,尿細管上皮基底膜には不規則な肥厚が認められた.間質には,好中球浸潤,出血,形質細胞浸潤がみられ,アザン染色では種々の程度の線維増生が認められた.尿細管内には血液,エオジン淡染漿液の貯留,好中球浸潤がみられた.髄質には,微小膿瘍が散見されたが,血管充盈の他は大きい変化は認められなかった.

 病原検索では,心,腎から Aerococcus viridans が分離された.

 以上から,本症例は細菌性(疣贅性)心内膜炎に継発したグラム陽性菌による栓塞性化膿性腎炎と診断された.なお,分離菌については病原性がない常在菌とされており,本症の一次的な原因菌ではないと思われたが,病理発生は不明であった.

牛のグラム陽性球菌による栓塞性化膿性腎炎