オオアブラムシ属は針葉樹を寄主植物とするアブラムシの一群で、世界で約200種が知られている。属としては寄主関係において、また形態的によくまとまっており、他からの区別が比較的容易であるが、種のレベルでは形態的に近似したものが多く、分類及び同定上の困難が大きい。日本産の種についてはInouye (1970)によって分類学的な再検討がなされ、24種が認められ、無翅胎生雌虫について検索表が与えられている。この検索表は、着色した厚皮板の発達の程度に重きを置いているため、そしてまた形質の種内変異の程度がおそらくは過小評価されているために、使用の難しい部分がある。
本研究では下表に示す31種について、無翅胎生雌虫および有翅胎生雌虫の検索表が与えられた。これら31種の内、5種は検査個体数が少なく、種名の決定には至らなかったが、今後の研究の便に供するため、「species A〜E」としてチェックリストおよび検索表に加えた。チェックリストでは、日本産種に関する従前の論文に現れた学名をすべて収録し、同物異名性など、本論文における扱いを明示した。
日本から記載または記録された種の多くは、ヨーロッパから知られている種に形態的に極めて近似しながら、しかし微妙な相違を示している。これら両地域の種について、わずか数個体の標本しか知られていない例が少なからずあり、そのような種では形質の変異幅が不明である。従って、日本のオオアブラムシ属の種構成については、未だに不確かな要素が多く残されている。この問題を解決するためには、日本、ヨーロッパ、そして両者をつなぐ中間の地域からの標本を多数蓄積し、解析することが必要である。また、細胞学的あるいは分子生物学的な手法による解析も重要と思われる。
なお、本研究は第一著者に対する日本学術振興会重点領域外国人招聘(RC10514)に基づいて実施された。


検索表 - 無翅虫 (英文)
検索表 - 有翅虫 (英文)
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